情動と犯罪  岡田尊司
 
愛着理論(あいちゃくりろん、Attachment theory )は、心理学、進化学、生態学における概念であり、人と人との親密さを表現しようとする愛着行動についての理論である。子供は社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それが無ければ、子供は社会的、心理学的な問題を抱えるようになる。愛着理論は、心理学者であり精神分析学者でもあるジョン・ボウルビィによって確立された。
 
<ハーローのアカゲザルの実験>
ハリー・ハーロウ(Harry Harlow)について、ご存知の方は多くないかもしれません。20世紀の前半に活躍したアメリカの心理学者です。研究分野は、発達心理学における母性愛についてで、ウィスコンシン大学で、アカゲザルの仔と、人工の代理母を用いて実験を行いました。
 
まず、研究の背景ですが、当時は、母親は育児の際に、母乳を与えて赤ちゃんを栄養的に満たすことは重視されていましたが、それ以外の母子の接触は推奨されませんでした。
感染症が起きる原因と考えられたんですね。アメリカの保育所では、全国的に、徹底した施設の減菌措置が進められていました。
 
当時はまだまだ乳幼児の死亡率が高く、その死因の多くが感染症によるものだったんです。特に、コレラ、チフス、ジフテリアは恐ろしく、抗生物質やワクチンのなかった時代にあって、免疫力の弱い乳幼児の感染は、致命的な結果を引き起こしました。
 
この風潮に疑問を持っていたハーロウは、アカゲザルの仔を母親から引き離し、2種類の人工の母親を与えました。一つは、針金でできた「針金の母」もう一つは、スポンジと柔らかい布でできた「布の母」です。で、針金の母のほうにだけ哺乳瓶を取りつけ、乳が飲めるようにしたんです。
 
「針金の母」と「布の母」
当時の考え方からすれば、アカゲザルの仔は、空腹を満たしてくれる針金の母になつくはずでしたが、アカゲザルは、乳は針金の母から飲むものの、それ以外の時間は、ずっと布の母に抱きついていたんです。まあ、現在から考えればあたり前の話ですが、母親は栄養だけでなく、温かい接触を与えることが大切だと証明したんですね。
 
また、ハーロウは、布の母を与えず、針金の母だけによって育てられた仔と、布の母を与えた仔との比較も行ったんですが、実験の結果は惨憺たるものでした。針金の母に育てられた仔は、完全に精神に異常をきたしていて、つねに小刻みに体を揺さぶり、自分の指に噛みついたり、毛を抜いたり、激しい自傷行為を行うようになりました。
 
布の母のほうの仔も無事では済みませんでした。針金の母グループほど、ひどくはなかったものの、外界のことに無気力・無関心で、ぼんやりとケージの隅に座り込んでいるものが多かったんです。結局、どちらのグループでも、多くの仔ザルが育たずに死んでしまいました。
 
ここから、ハーロウは、母親が与えるものは、暖かさ、柔らかさだけではなく、自ら抱きしめるなどの積極的な愛情行為が必要だと結論づけました。これはもともと、古代から普通に行われていたことですが、20世紀初頭という、生活に科学が入り込んでくる時代において、変な方向に向かってしまっていたのを、ハーロウが修正したということです。
 
精神に異常をきたした仔ザル
次に、ハーロウは「モンスターマザー」を製作します。これは、布の母のバリエーションですが、激しく振動するしかけ、バネ板で仔ザルを弾き返すしかけ、圧縮空気を噴出するしかけ、一定時間がくると針が飛び出して、仔ザルを刺すしかけを加えたものです。
 
これらの母を仔猿に与えたところ、仔猿は、弾き飛ばされたり刺されたりしても、何度でも自分からモンスターマザーに抱きついていきました。生まれつき、子どもにはそういう習性が備わっているんですね。昨今、児童虐待のニュースをマスメディアで目にすることが多いですが、子どもにしてみれば、どんな親でも、慕う以外のことはできません。
 
親に虐待されるのは自分が悪いと考え、「次からいい子になるから、ごめんなさい」をくり返すという悲劇が生まれるわけです。これらの実験により、数百匹のサルの仔が死にましたが、ハーロウは、「何万人もの虐待される赤ちゃんを救えるなら、サルの仔の犠牲はものの数ではない」と言って、悪びれませんでした。
 
さて、ここまでのところは、まだ、まともと言える実験内容ですが、だんだんにハーロウの実験は常軌を逸していきます。まず1つめが「レイプマシン」製作。上記の代理母の実験で育ったサルのほとんどは、社会性のない状態でしたが、それらのサルは自分の子どもを育てることができるのか?
 
代理母で育ったメスのサルは、群れのオスと交尾することができなかったので、レイプマシンは、無理やり体を固定して、オスのサルから受胎させるものです。しかし、これで生まれた仔に対し、母ザルは愛情を示さず、授乳しなかったり、踏みつけたり、頭を噛み潰したりしてしまったんです。自分が母の愛情を受けないで育った場合、自分の仔に対しても、愛情が持てなかったということです。
 
「絶望の淵」
次の実験は「絶望の淵 pit of disapair」というマシーンの製作、これは、金属板を逆ピラミッド型に組んだ滑りやすい装置で、その中に入った仔ザルは、外界が見える位置まで登ると、滑り落とされてしまいます。この実験でもやはり、多くのサルが精神に異常をきたしました。
 
さてさて、ハーロウは毀誉褒貶の多い人物です。たしかに、育児にあたって、母親の子どもに対する愛情が重要であることを示しましたが、同時に、実験動物に対する扱いについて大きな非難が起こり、アメリカでの動物愛護運動が生まれるきっかけとなりました。
 
最後に、ハーロウ自身ですが、重い鬱病と、アルコール中毒を抱えており、妻との離婚がきっかけで病状が悪化し、自分に対して、当時最先端の精神病治療法であった電気ショック法を行ったりしています。
このことを考えれば、上記の数々の実験には、抑鬱状態の中で考え出されたものもあったのかもしれません。では、今回はこのへんで。
 
愛着の存在
どんなに他の人が適切な世話をしようと、母親でなければ子どもを十分に満足させることができない。
しかも、特定の存在に対する選択的で持続的な関係が形成されるには、臨界期が存在し、人間の場合、1歳半を過ぎてしまうと愛着形成が起きにくくなる。
 
<愛着障害>
・回避型 母親との離別、再会にも無関心な傾向を示す
・抵抗、両価型 母親との離別、再会に際し、怒りや抵抗を示す
・愛着軽視型 他者との密接なかかわりを回避
・とらわれ型 親密な他者に過度に依存、見捨てられ不安が強い
 
<Killing Time 「哲学、女、唄、そして... ファイヤアーベント自伝」>
 道徳的な性格は議論によっても、教育によっても、あるいは意志的な行為によってもつくりだすことはできない。それは両親の愛情、ある種の安定性、友情などの偶発的な事柄に依存する。そしてそこから導かれる自己への関心と他者への関心の微妙なバランスに依存する。 
・愛着の安定性は、その親との関係だけでなく、他の人物との関係にも一般化しやすい
 
<共感性の発達と愛着>
・里親に育てられることは、虐待の有無に関係なく精神病質のリスクを高めることも報告 されている
・過保護に育てられている場合も同じ傾向
・共感性の発達には父親の役割も重要
 
<誰でも良かった型犯罪と回避型愛着> 永山則夫「無知の涙」
「おふくろは、俺を3回捨てた」
母親自身も両親から捨てられた経験
 
<窃盗癖と愛着障害> ジャンジュネ
生後7カ月で遺棄され、里親の下で生育
実子の息子が敵対的
・33歳の時に逮捕されたのを最後に刑務所と縁を切ることができた。その助けとなったのは、ジュネを支えようとした友人との関係であり、作家として新たなアイデンテティを見いだしたこと
 
<愛着の関与は希望の灯火ともなる>
・犯罪や反社会的行動を理解するうえで愛着の関与が重要なのは、愛着というものが先天 的な要因による部分よりも、後天的な要因に負うところが大きく、しかも成人した後も ある程度修正が可能である。
・安定した愛着を提供できるような養育環境を守る取組こそが、不幸の連鎖を止めること になる
・非行少年が回復し、更生を遂げたケースでは、関わった担当職員との間に信頼関係が築 かれ、それを足がかりに家族との関係も安定化したという経過をたどっている。
・第三者が親代わりの存在となり「安全基地」として関わり続けることで再犯が抑止され 回復に至る。
 
愛着安定化に焦点を当てたアプローチが効果的
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「家族の幸せ」の経済学
データ分析で分かった結婚、出産、子育ての真実
 
・男性の5人に1人、女性の10人に1人は生涯独身
 男性の50歳児未婚率は、長年低いままだったが、1990年頃、時代が平成に入るあたりから急速に上がりはじめ、2010年には20%に達した。
 
<なぜ非婚化・晩婚化が進んだのか>
結婚相手の「家事・育児の能力」を重視すると答えた女性の割合は6割近くに上り、男性にも家事・育児の能力が求められている。
 さらに自分の仕事を理解してくれることを重視すると答えた女性は5割近く、結婚後も働き続けることを希望する女性が多い。
 
・子どもを持つことのメリットも減少してきている(P.40)
 
・高学歴でキャリアのある女性ほど、子育てによって暗黙のうちに失われる収入は多くなる
 
・結婚のメリットだけでなく、出会いの機会も減ってきている
 
<出会いのきっかけ> P.45表
・減り続ける見合い結婚
・職場での出会いが3割
・異性の多い職場は職場結婚も多い
 
・アメリカではカップルの2割がマッチングサイトで出会っている
・インターネット利用機会の拡大がマッチングサイト利用を促し、結婚の増加につながった
 
・たとえうまくいかなくとも気まずい思いをしなくて済む
 
 
 
 
 
 
 
学校開放後の学級経営(八巻ェ治)
 
・年度末、年度初めにちゃんとお別れや出会いができなかった子どもたちは多くの不安を 抱えている
 
・学級経営の工夫により、子どもたちが学校生活になじめるようにする具体策
 
・構成的グループエンカウンターのエクササイズ
 自己開示とフィードバック
 数カ月間自宅でどのように過ごしていたか、どのような気持ちだったか 
 フィードバックでは語ったことを元に、相手に肯定的・受容的気持ちを伝える
 
・一気に心理的な距離を縮めることができる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
危機を教材にする(ジャーナリスト 池上彰)
 
コロナに学ぶ国語・算数・理科・社会
 
理科:今回の病原菌はウイルスであって細菌ではない
   細菌には細胞膜があり自力で増殖するが、ウイルスに細胞膜はなく自力で増殖でき   ない
   生物学者の従来の定義からすれば、ウイルスは生き物ではない
   「生きているとはどういうことか」
算数:感染は「再生算数」が1以上になると拡大し、1未満が続けば収束に向かう
   再生算数の求め方を課題に
社会:アメリカで感染者が増え続け、死者も多いのは、国民皆保険制度がなく、安心して   医療にかかることのできない患者が大勢いるから
   社会保障の意味を考える絶好のチャンス
国語:あなたが日本の首相だったら、国民にどんな語りかけをしますか
   カミュの「ペスト」を読む
英語:パンデミック、クラスター、オーバーシュート、ロックダウンの意味
 
子どもたちも先生も不安な気持ち。
私たちが置かれている状況が少しでも分かれば、冷静になれる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
愛着障害の克服 大鶴和江
 
きずなを回復させていくプロセスに焦点をあてていく解決が重要
1.安心安全の基地となる人や存在を持つ
・家庭や家族といったベースキャンプが機能していること
・私は守られている、安全だという意識が重要 ・大人にとっても重要
・なければつくる パートナー、友人、先生 ありのままを受け入れてくれる人
・共感してもらいたい
 
2.自分の辛かった過去などを言語化して言葉で表現する
・開放、癒やしが起こる
・未解決の心の傷を言語化して相手に受け止めてもらうことで心の開放が徐々に起きる
・人は受容されて肯定されてくると人とのつながりや温かさというものを感じるようにな る
 
3.不安や恐怖の妄想から現実をみつめる
 認知バイアス、愛着の問題が起きると認知がゆがんでしまう
・自分の認知のゆがみに気づいて修正していく、考え方を変える
・妄想と本当の現実を切り分けることが重要
・認知のゆがみを少しずつ提示「今あなたはだめだといったけど、本当の現実はどうです か」対比させて本人に確認させてあげるといい
・自分の考えている自己像と現実が全然違っていたりするので、そこに気づいてもらうこ とが非常に有効
 
4.自分が自分に対して愛情を与える
 自分が自分の安全基地になる
・インナーチャイルドワーク(昔から使われている心理療法)
・過去の傷ついた自分を目の前のイスにぽんとおいて、その上に過去の傷ついている自分 を乗せる。そして、自分と対話する。触れて抱きしめてあげ、そのとき辛かったことを 「こうしていいよ」「自分に言いたいこと言っていいよ」「本当はこう言ってもらいたか ったんだよね」「だから私が言ってあげるよ」「生まれて良かったんだよ」「生きてて良 かったんだよ」「一人じゃないよ」という言葉を言ってあげる。
 自分が幼少期、親から一番もらいたかった言葉を言ってあげる。
・インナーチャイルドがどんどん変わる
 
5.自分から他人に愛情を与える 困っている人に親切にしてあげる、助けてあげる。
・相手が喜んでくれると自分もうれしいという感覚を味わうことができる。動物の世話で もいい。人のために与える行動→自分が癒やされる
 
湖北省では子どもの20%にうつ症状
 
・子どもたちの日常、学校生活が失われ、放課後の活動も失われ、友だちと過ごす時間も なくなった
・さらにパンデミックそのもに恐怖を覚えたものもおり、家族の経済的困窮に悩むものも いた
 
ポジティブの重要性
・「家に閉じこもっている」とか「孤立してしまっている」とかでなく、力を与える言葉を使おう。「みんなが安全に過ごせるように家にいることを選んでいる」と言おう。
 
感じたことを言葉にしよう
・どのように感じてもいいのだと言うことを伝える
・感情を抑えようとせず、自分の感情を認めて、その感情に対処する健全な方法を話し合 うようにしよう。
 
習慣を作ろう
・簡単なルーチンは、子どもたちが毎日何を期待すればいいのかを知るのに役立ち、不確 実で不安な気分を改善することができる。
 
楽しいアクティビティを計画しよう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
家庭で過ごす期間の子どものストレスとその対応 本田恵子(早稲田大学)
 
・突然の出来事に対して、ショックを受け、適応力が追いつかない状況
 
★道徳性、自我が目覚めてきたので「正しいこと」を求める
・家にいる子、学童に行く子の違いを理解させる
 
★生活の区切りを付ける儀式を行う
・終わりと始まりを付ける
・これから所属する足場を固める
 
・仲間とつながっている連帯感を持つ
 みんな同じように体験しているという連帯感、仲間と一緒に乗り越える支援
 
・思春期は集団に属することが成長の課題のため、集団から切り離されることが不安をあ おる。