ルポ 誰が国語力を殺すのか 石井光太
 
序章 『ごんぎつね』の読めない小学生たち
 常識的に読めば、葬儀で村の女性たちが参列者に振る舞う食事を用意している場面
 ところが、生徒たちは「兵十の母の死体を消毒している」「死体を煮て溶かしている」と回答
 
 4年の国語の教科書に載っている「一つに花」
 父親が駅でコスモスを一輪あげた理由
「駅で騒いだ罰として汚い花をゆみ子に食べさせた」「このお父さんはお金儲けのためにコスモスを盗んだ。娘にその花を庭に植えさせて売ればお金になると思ったから」
 
・こうした子どもたちに欠けているものは、読解力以前の基礎的な能力、物語の背景を思い描く 力
 
OECDのPISA(生徒の学習到達度調査) 3年ごと
 15歳の子どもを対象に数学的リタラシー、科学的リタラシー、読解力の三つが計られる
 日本は数学的リタラシー、科学的リタラシーは常に上位であるにもかかわらず、読解力は長らく低迷
・2018年の調査でも数学が6位、科学が5位に対して読解力は15位
 
単なる読解力の問題ではない(ある校長)
「教育現場において感じるのは、国語の文章が読めるかどうかは一つの事象でしかなく、他の教科や日常においても、同じ現象が見られることの方が危うい」
 社会で戦争を学んでもそこで生きる人たちの悲しみを想像できない、理科で生態系を学んでも命の尊さに結びつけて考えられない、生徒指導でクラスメートに「市ね」と言ってはいけないと話しても、なぜ?と理解できない→重大な力を失っている
 
ごんぎつねの根本的な誤読も、この延長線上にあるのではないか
 
・今の子は知識の暗記や正論を述べることだけにとらわれて、そこから自分の言葉で考える、想像する、表現すると言ったことが苦手なので、国語に限らず他の教科から日常生活までいろんな誤解が生じ生きづらさが生まれたり、トラブルになってしまう。
 
卒業生の保護者からこう言われる「せっかく高校に行ったのに、中退してしまった。バイトも一ヶ月ももたない。話し合っても、子どもは自分でも原因がわからず要領を得ない」
 
・児童虐待、少年事件、生活困窮、自殺など深刻な社会問題の背景の当事者に共通するもの=自らの言葉で考え、想像する力の欠如
 
 国語が果たす役割 国語力とは何か
 
・国語力とは、文科省の定義によれば、考える力・感じる力・想像する力・表す力の四つの中核からなる能力としている
・文科省が国語力を高めることがより良く生きる力を育むとしているのは、将来的にそれが全人的な力となるからだ
・日本の病理、コミュニケーション障害、孤立、炎上、ヘイト、陰謀論など現代を象徴する社会課題は、国語力の弱さなしに説明し得ない
 
第一章 誰が殺されているのか 格差と国語力
・やばい、えぐい、うざいといった短い言葉での表現
・言葉のない生徒たちは、うまくいかなくなったときになぜそうなったのかについて言語で考えることをしない
・場当たり的な解決策:暴力、不登校、ネットに悪口、リストカット
 
・言葉のカースト 生徒によって歴然とした差がある
 
<何が子どもたちの環境を変えたのか>
・デジタルツールが生活に入ってきたことで、リアルな会話が減った
・家庭環境が大きく影響
 新しいライフスタイルの中で、スマホやタブレットをみせるだけの育児(スマホ育児)が増えたこと、親が夜に帰宅した後もゲームやスマホをいじってばかりいて、子どもと向き合っていない
 
「ゲームばかりしているとお父さんに怒られるよ。まあ、今日はいいか。勉強もしたしね」
 その直後、子どもは激怒して母親に暴力を振るった。
 なぜか。原因は子どもが「勉強したしね」の語尾を「死ね」と行き違えたこと。
・国語力のない生徒は言葉を文脈の中で理解できず、一語一語区切って読んだり理解する
 
<反省できない子どもたち>
・言葉で考える習慣がないので、子どもたちは自分の起こしたトラブルの意味を客観的に把握できず、説明できない。怒られても反省できない。
 
<家庭格差>
欧米では子どもの生活環境を重要視
フィンランドのネウボラ(アドバイスの場) 利用率はほぼ100%
・親の妊娠がわかった時期から小学校入学まで、1家族に1人の保健師が担当について、妊娠・出産・子育てに関するアドバイスを一貫して行う
・国が家庭の中にまで踏み込み、無償で国語力の底上げを図っている
・広島県などが欧米型の子育て支援を取り入れようとしている
 
第二章 学校が殺したのか 教育崩壊
小中学校の教員 2000年前後に国語力が弱まった
ゆとり教育の失敗
 
本来ゆとり教育は子どもたちの人間性を養うために導入されたものだった
ゆとり教育の4つの目的(文科省)
@豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚の育成
A多くの知識を教え込む教育を転換し、子どもたちが自ら学び自ら考える力の育成
Bゆとりのある教育を展開し、基礎・基本の確実な定着と個性を活かす教育の充実
C各学校が創意工夫を活かした特色ある教育、特色ある学校づくり
 
なぜ逆の結果を生んでしまったのか。
 
ゆとり教育が目指したのは探究型の教育であって、その象徴が総合的な学習の時間
あの時のやり方には相当に無理があった
@教科学習は依然として系統主義の詰め込み型、一方で探究型学習をしろというちぐはぐ感
A文科省が探究型の学習の具体的な方法をしっかりと示さず、現場に丸投げしたこと
 
教室で行う探究型の授業の質を高めるには学校の図書室との連携が重要
・学校の中に教員と司書が連携する十分な環境が整っていなかった
・司書教諭…教員と学校図書館とをつなぐしごとをする教員
 司書教諭は小学校にはおらず、中・高校では配置されていないに等しい
・代わりに配置されているのが事務職である学校司書
 小中学校の学校司書はその4割が複数の学校との兼務や他との兼任。教員のように授業を行うことが認められていない。
 
日本の子どもの学力低下を示したのがPISA(P.87の図)ゆとり教育の開始と同時に順位低下
特に読解力の低下が著しい
 
 
第三章 ネットが悪いのか SNS言語の侵略
 
対面の場合は人と人とがお互いに一歩距離を置いて、相手の思いを想像したり、空気を読んだりして言葉を選びながらしゃべる。しかし、SNSでは相手との距離感が存在しない。情報を発信する側は、相手の感情を考えず、その瞬間の言葉をストレートに発する。コミュニケーションと言うより感情の吐き出し。
 
・ネット内で生まれた特殊な言語
池沼(知的障害者)、ガイジ(障がい児)、ナマポ(生活保護受給者)、ピザ(デブ)、自宅警備員(ひきこもり)、メンブレ(メンタル崩壊)、厨二房(中二病)、糖質(統合失調症)、BBA(ババア)
 
現代の子どもをとりまく言語環境
 
長い年月をかけて培われてきた対話によるコミュニケーションの形式がほんの10年ほどの間にSNSのそれに取って代わられたことで、社会的な規制や教育が追いつかないまま、新しい特殊な言語環境にすべての子どもたちがさらされている。
 
第四章 19万人の不登校児を救え フリースクールでの再生
なぜ不登校の子どもたちは学校へ行けない理由を答えられないのか。実は底に国語力の問題が横たわっている。
 
2003年文科省の見解「不登校の要因は多様であり、どの子どもにも不登校になる可能性がある。そして、学校側がただ待っているだけでは改善策にならないとし、NPOとも連携を取ることが重要だと示した」
 
<文科省令和2年度児童生徒のもんだ行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について>
・不登校の要因 無気力・不安が46.9%
「どのようなことがあれば休まなかったか」小学生の55.7%、中学生の56.8%が「特になし」と回答      ↓
    自分がどうしてほしかったか、どうすれば現状を変えられるのかを言語化できていない
 
フリースクール
自分の言葉で考えて、動いて、自立することが目標
自分が好きだと思えることを見つけ出すこと
 
 
第五章 ゲーム世界から子どもを奪還する ネット依存からの脱却
WISCという子供用の知能検査
IQを言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の四つに分けてそれぞれの能力を測る
不登校の子どもたちは言語理解のIQが低い
 
 
第六章 非行少年の心に色彩を与える 少年院の言語回復プログラム
・オノマトペ(擬態語、擬声語)でしか罪を説明できない バァ、ガッ
犯した罪の振り返りを適切な言語で説明することができない
 
・少年たちが言葉を持てない原因の一つは、家庭環境の悪さにある
家庭内暴力、育児放棄、過干渉にさらされている子どもたちの増加
こうした環境で育つと、子どもは何を言っても聞いてもらえない、自分の意見を持っても意味がないとして思考そのものを諦めるようになる
口癖「意味がない」「くだらねぇ」
自己分析が苦手
一方で怒りの感情は「むかつく」「殺す」「死ね」など驚くほど簡単に口に出す
 
<少年院で行われている矯正プログラム>
・表現教育
 手紙の朗読 最初に少女たちに未来の自分の理想像をつくらせ、努力によって成し遂げた将来の自分をイメージさせる。そして、少年院にいる現在の自分から将来の自分にあてて手紙を書く。 発表の場には保護者にも来てもらう
 
・人にとって喜びの気持ちはわかりやすいし、表現することも簡単だ。でも、悲しみや怒りの感情を理解し、表すのはとても難しい。よほど慎重に言葉を選ばなければ間違いかねない。なのに君たちは悲しみや怒りを何でもかんでも「死にたい」とか「殺す」といった言葉でまとめてこなかったかな。悲しみが「切ない」程度なのに「死にたい」といったり、怒りが「いまいましい」なのに「殺す」といったりすれば、感情と行動が違うものになってしまう
 
感情をコントロールすること=感情を細かく分けて考え、それに適した行動をとればいいのだ
 
・日本の学校では国語は身近すぎて軽視されがちだが、生きることに困難を抱えている人たち大半は言葉に問題を抱えている。きちんと学び直しの機会をつくり、考える力、他者への想像力、論理力をつけさせるべき
 
ナラティブアプローチ
1)子どもを安全地帯に置く
2)五感を刺激しながら言葉と思考のリハビリを行う
3)言葉による成功体験を積み重ね、自己肯定感を高める
4)実社会での生きがいや希望を見出させる
 
第七章 小学校はいかに子どもを救うのか 国語力育成の最前線1
広島市のなぎさ公園小学校
国語力の基礎となる感性を伸ばす教育に力を入れている。常に五感を開いてあらゆることを知覚し、想像する力を養わなければ、物事を適切に表現することはできないという理念
自然体験を特色の一つに
 
・読書郵便という手作りのポスト
面白い本に出会うと他の生徒や教員にそれを薦める手紙を書く→新たな読書体験、本の話題
 
・児童は五感を刺激されると、自分から言葉を発するようになる。感じたことを自分の言葉で語ろうとする。
国語力のベースとなる「感じる力」「想像する力」
 
<思考ツールの活用> 生徒の間で問題解決をする道具
・考えを視覚化するためのもの
 生徒から出た意見を定まった図表に置くことで、論点や課題を抽出し、解決へと導くのに使用
・たとえばイメージマップとして、中心の○に差別と書けば、周辺の○にそれに関係するヘイトスピーチ、同和問題、いじめ、違法などと書いて、その概念を理解するのに使う。
物事を視覚的に整理して深い思考につなげる
 
・この思考ツールを導入してめざましい成果を出しているのがつくば市立春日学園義務教育学校
2012年複数の教員が研究部を結成して指導案を作成
生徒たちにツールの使い方を教え授業やイベントの時に利用するようにした
その結果:物事を考える力が飛躍的に伸び、学力が全体的に10ポイント上がった
     課題だった不登校が一時期ゼロに
     思考ツールによって物事を考え、解決できる力がついたことが大きく影響
 
 
第八章 中学校はいかに子どもを救うのか 国語力育成の最前線2
・文学作品を読むことが勉強だけでなく社会で生きる上での基盤となる力を育むことは多くの研究者が指摘。
教育学者の齋藤孝(明治大学教授)も、学校教育において他者への共感力やコミュニケーション力の成長を担ってきたのが、夏目漱石や芥川龍之介などの文学作品だった
 
・一サルの文庫本をテキストにするのは灘中学、麻布中学などが有名
 
<開智日本橋学園中学校・高等学校の哲学対話>
・哲学対話とは答えのない問に対し、クラスのみんなが意見を出し合うというもの
・生徒たちは多様な意見を積み重ねることで思考を深めていく
 
東京の立教小学校で哲学対話のモデル授業
その幸士に声をかけ、実験的に年15回の哲学対話の授業を実施したところ、生徒たちの考える力や表現する力が瞬く間に向上し、クラスの人間関係も良くなっていたことから本格的に導入。
 
・哲学対話で行っているのは、最近ブームの「論破」とは真逆なこと
 人の話をきちんと聞き入れた上で、自分の意見を述べ、さらにいろんな人たちとの対話の中で思考を深めて柔軟に自分の意見を変えていく。答えがないので沈黙も一つの表現としてみなされる。
・哲学対話は週1回の道徳の授業を使って隔週で行っている。
 
哲学対話の起源は1960〜70年代にかけてアメリカの哲学者マシュー・リップマンが始めた。
当時のアメリカはベトナム戦争を発端にして起こった学生運動が活発化。やがては暴力的な言動に及んだり、過激な思想がまかり通る状況が生まれた。
 こうした状況に危機感を覚えたリップマンは子どものための哲学によって、一つの場で他者と共に語り合うことで、テーマを深く探究する力を身につけさせるというもの。
 
・この教育手法は異なる民族が集う中で、共生を模索する力を身につけたり、メキシコやブラジルでは激しい貧富の差や階級を考える教育の一つとして導入された。
 
・生徒が自分たちで哲学サークルをつくったり、ディベート同好会を結成
「先入観を払拭できた」「相手の意見を尊重できるようになると、生きることがすごく楽になるのです」
 
 
終章
文科省は教育基本法第一条を受けて、教育の目的を次のように述べている。
「人格の完成を目指し、平和的な国家及び社会の形成者として、心身共に健康な国民の育成を期すること」
 
ヘレンケラーが照らし出すもの
・7歳の時にサリバン先生に出会い、世の中に言葉というものが存在することを知った。
 
聖書「はじめにロゴスありき」 ロゴス:言葉、思考
 
 
 
AI VS. 教科書が読めない子どもたち  新井紀子
・基礎的読解力を調査するためのリーディングスキルテスト(RST)を開発
・3人に1人が簡単な文章が読めない
(例)次の文を読みなさい
「仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている」
 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
 オセアニアに広がっているのは(  )である。
@ヒンズー教、Aキリスト教、Bイスラム教、C仏教
 答えはAキリスト教
正答率は中学生で62%、高校生で72% 中学生で3人に1人以上が、進学校の高校生でも10人に3人が正解できなかった。
 
<読解力を高めるためには>
・RST
 埼玉県戸田市では2016年以降、小学校6年生から中学3年生まで全員がRSTを受検
 先生たちも受検(どんな問題が出題され、どうして生徒が躓いたのかわからない)
 戸田市ではさらに、学校内で先生たちが放課後集まって、RSTの問題を自力でつくったり、どうすれば読めるようになるのかという授業の検討を毎週行っている。
 
教師のモチベーション向上にも役立つ 「教えたらわかる」という手応え
 
・埼玉県の学力学習状況調査
 戸田市はそれまで県全体の中位だったが、突如として中学校は1位、小学校は2位で、総合1位に急上昇した。
 
・先生たちが「きちんと教科書が読めるようになるためにはどうしたらいいか」を研究し、実践する、そういう地味でベーシックなことが岡に重要かを示唆。
 
<AIに代替されない人材>
・意味を理解する能力
 
<アクティブラーニングは絵に描いたもち>
→教えてもらうだけでなく、自分でテーマを決めたり自分で調べたりして学習したり、グループで話し合って議論したりする。
  ↓
BUT教科書に書いてあることが理解できない学生が、どのようにすれば自ら調べることができるのか。自分の考えを論理的に説明したり、相手の意見を正確に理解したり、推論したりできない学生が、どうすれば友人と議論することができるのか。
 
<中高生の読解力の危機>
・筆記試験が難しくて普通免許が取得できない、板前修業しても調理師免許が取れない
 
・AIと共存する社会で、多くの人がAIにはできない仕事に従事する能力を身につけるための教育の喫緊の最重要課題は、中学を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすること。
・教科書が読めるかどうか、そこで格差が生まれる。
 
・RST 全国で100以上の学校や機関が協力 →現場の危機を体現
 
<処方箋は簡単ではない>
 
AIでは絶対に代替できない仕事の多くは、女性が担っている。
介護、子育て
 
RSTを提供するための社団法人「教育のための科学研究所」
 
RST
中学1年生が受検して、結果が戻ってくるだけでは読解力は向上しない。一人ひとりの生徒の読解力を把握すると共に、教師自らがRSTを受験し、「なぜ生徒が躓くのか」「どうすれば読めるようになるのか」をPTAや学校が、教育委員会全体で考えたときに初めて効果が出る。そういう体制を整えた教育委員会から優先的に、中学1年生に対しRSTを無償で提供したい。
 
 
 
AIに負けない子どもを育てる  新井紀子
 
学校の教師「算数の文章題を解けない生徒の多くが、問題で何を聞かれているのかわかると聞いても答えられない。ドリルは満点でも文章題は真っ白の答案という生徒は少なくない」
 
RST「事実について書かれた短文を正確に読むスキル」を6分野に分類
@係り受け解析…文の基本構造を把握する力
A照応解決…指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力
B同義文判定…2文の意味がドイツであるかどうかを正しく判定する力。
C推論…小学6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力
Dイメージ同定…文章や図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力
E具体例同定…言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力
 
新しい学習指導要領 高校で論理国語を導入
小中学校でも文学偏重から事実について書かれた文章を正確に読んだり書いたりすることにも重きが置かれるようになった
 
メールや契約書など文書で判断しなければならない仕事は厳しい
(cf 日本ハム 北海道の芯ドーム球場問題)
 
<リーディングスキルテスト(RST)>
・約35分で6分野7項目の「基礎的・汎用的読解力」を診断 現在は25分版も可能に
・現在数千問の問題が出題可能な問題として「項目プール」に入っている。
・受検者一人ひとり学年や読解レベルに合わせて項目プールから出題する。
・終了したその場で受検者には画面上に能力値や、その能力値ではどんなことに気をつけなければいけないのかというアドバイスが表示される。
・学校には能力値以外にその集団における偏差値など詳細なデータが返却される。
・受験生はわずか35分の試験に「とても疲れた」という感想
・学校ならば先生や教育委員会の指導主事に、企業ならば人事部の方たちにも受検を進める
 
・先進的な自治体では、研修時にRSTを受検させ、「どういうタイプの読みを苦手としているか」と言うことを意識させ、改めて教科書と向き合わせる研修を行っている。
 
・ある県で調査した10校あまりの高校のRSTの結果をまとめているときに、各校の偏差値とRSTの正答率がきれいに相関している。
 
「教育のための科学研究所」がRSTサービスを開始して約1年。14万人以上がRSTを受検。
・自治体内のすべての学校で小学6年から中学3年まで全員が受検する予算を確保した自治体も。
・地元の大学と協力してRSTで診断する基礎的・汎用的読解力が何と関係しているか、提起テストの結果や独自のアンケートを用いて分析する自治体も出始めた。
 
・「普通に読めばわかるはずの質問に答えられない」「教科書から該当箇所を抜き出すだけで良い課題がこなせない」「中学に入学した途端に、理数系がさっぱりわからなくなった」→RSTはこういう生徒を早期に発見し、どんな科目の教科書も読めることを保証する公教育を目指すための取組。
 
第七章 リーディングスキルは上げられるのか?
どうすれば読解力が上げられるか
・全数調査をする.教員にも受検させる 埼玉県戸田市、板橋区、富山県立山町
 福島県は小学6年生から高校生まで6000人規模の調査を実施 奥羽大学と協力
 
<読解力が低下した原因>
日本はアクティブラーニング先進国
日本の班活動に注目した世界の国→アクティブラーニングという名前で逆輸入
ではアクティブラーニング先進国の日本で、なぜ教科書を読めずに卒業する生徒が3割もいるのか
「アクティブラーニングブームの中で、一人も取りこぼさずに学ばせるためによかれと思って考案された様々な工夫」がその理由の一つではないか。
 
・ノートをとることが減っている?
 4年生になっても2Bの鉛筆を使っている
 「ノートはあまり取らせないんです。プリントやワークシートを配布して作業させることが多い」「黒板をうつさせる活動はアクティブラーニングではなく、一方的な教え込みですから」「黒板をうつさせる時間がもったいない。それならば話し合いの活動に時間を割いた方がいい」「電子黒板だと、コンテンツを次々に投影するのでノートはとれないですから」
 
ワークシートやプリント→文章を書かせるよりも穴埋め形式が多い
 
「一人も置き去りにしない」ために、書く速度が遅い生徒に合わせたプリントやワークシート類、情報化を推進するための電子黒板が、ノートをとれないまま卒業する小学生を大量に生んでいた。   ↓
キーワード検索でプリントを埋める、そのプリントでテスト対策をする術を身につける
 
<富山県立山町>
富山県は小中学共に学テの成績が高い
先生方も熱心で、丁寧なプリントづくりに励んでいる。もしかするとプリントをつくりすぎたり、ドリルをさせすぎた結果、小学校は見せかけの成績が上がる一方、伸びしろが小さくなっているのではないか。
 
・計算ドリル、特にあらかじめ桁がそろえて書いてある筆算ドリルは使いすぎてはいけない.問題をノートに写させて筆算させる方がいい。デジタルドリルは問題外。
なぜかというと筆算の初期のつまづきの多くが「桁をきちんと合わせないこと」「繰り上がりや繰り下がりを正しい箇所に書かないこと」にある。
 
第八章 読解力を養う授業を提案する
「教育の科学研究所」ホームページでリーディングスキルを向上する授業案を公開 DownLoad
 
・定理
・文章構造を理解 就職後を加えていく遊び
 
2022年度から実施される高等学校の新学習指導要領 小中学校の国語教育改革の流れの延長
 
 
第九章 意味がわかって読む子どもに育てるために
「何がどうした遊び」(第8章)
・新聞学習 興味のあるニュースを選ばせて、ニュースの要約を200字程度、感想を200字程度で書かせる。
・説明を省いて相手を自分の要求通りに動かそうとする→きちんと説明すれば聞いてもらえるが、いい加減な説明では聞いてもらえないことを学ぶ。学校のルールとして確立。
・定義を説明させる
 
いくつかの旧帝大では、証明問題、特に数学的帰納法の問題を出題できなくなった→あまりにもできが悪く、スクリーニングの機能を果たさないから
 
第10章 大人の読解力は上がらないのか
・ふだんの生活の中で、ゆっくりでも正確に意味を理解しようと心がけることが第一歩。
・教科書をノートに要約する。
 
edumapに学校ホームページを移す
@自治体内にサーバーを設置している
Aサーバーのメンテナンスに教育委員会がお金を払っている。しかしOSなどのメンテナンスが長期間行われていない。
B情報の更新が1カ月に1回である。
C学校内の特定のパソコンからしか学校のHPの内容が更新できない。
Dパソコンからでないと読みづらいHPである。
教員の多忙感が軽減され、本来の仕事に集中できる。
 
 
なぜ、読解力が必要なのか?  池上彰
 
日本人の読解力急落の衝撃
79カ国・地域の15歳(日本は高校1年生)約60万人の生徒を対象に実施された2018年のPISA(ピザ)(学習到達度調査)で、日本の読解力の順位が、前回2015年の8位(516点)から15位(504点)に下がった。 過去最低
・PISA調査:経済協力開発機構(OECD)が実施している国際的な学習到達度調査で、「21世紀に必要となる主要な資質・能力」として読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの3つを調査
・数学的リテラシーは6位(527点)、科学的リテラシーは5位(529点)でトップクラスを維持
 

 
OECD(経済協力開発機構)が実施している15才児の学習到達度調査「PISA(Programme for International Student Assessment)]は読解力を次のように定義
「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟慮する能力」
つまり、テキストを読み、正しく理解できる力。テキストの意味を熟考できる力。テキストにもとづいて自分の意見を論じられる力。
 
AI社会の下での読解力の問題
・読解力のない人はAIに仕事を奪われる
・高い読解力が必要とされる仕事はしばらくはAIに奪われない。
 
「東ロボくん」という人工知能
ロボットは東大に入れるかというプロジェクト
AIは読解力を身につけられなかった
 
<読解力テスト>
 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名alexanderの愛称でもある。
 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は(  )である。
@Alex AAlexander B男性 C女性
正解は@の「Alex」。この問題における中学生の正答率はわずか37.9%。高校生は64.6%
 
<読解力を鍛える方法>
・要約の練習が有効
・要約の教材は新聞がおすすめ 記事の内容を100時前後で要約する
 
・飛ばし読みを矯正するために音読が有効
 
・不登校の生徒向けの「音読で読解力アップ」サービス
 
・不登校の子ども「人の言っていることが理解できない。うまく説明できない」
→無学年方式という読解力育成プログラム
 
<相馬市のRST導入>
・児童生徒の読解力を可視化し、客観的なデータにもとづいて分析することで教員の授業改善や指導力向上、児童生徒の学力向上につなげることができる重要な教育ツールであると判断し、導入を決定。
 
・読解力について、「係り受け」「照応」「同義文判定」「推論」「イメージ判定」「具体例」という視点での分析が必要。
 
・フィンランドでは、文章や資料を、信頼性、客観性、論理性などを評価しながら読むクリティカルリーディングが発達
「批判的読み」(クリティカルリーディング)
筆者の発想を読む、自分の考え・論理をつくる
次期学習指導要領がめざす「言葉による見方・考え方」を育てる
 
<読解力がない人、文章が読めない人は攻撃的になりやすい>
・SNSが普及した現代において、長文が読めない人が増えている
・誹謗中傷、炎上、デマ拡散などの背景に1ビット思考(物事に白か黒、0か100で判断する極論行為)
 
文章を読めない人の問題点
・作文能力の問題(ネットスラングや定型文・語録を多用する)
・思考力の問題(誰かの意見・評価を自分の言葉のようにふるまう)
 
・戸田市ではリーディングスキルテストをいち早く取り入れ、市内の全小学6年生および中学生を対象にテスト実施。その結果、想像以上に子どもたちが文章を理解していないことが判明、読解力を高めるため授業に工夫を凝らしている。