「学校における働き方改革」の先進事例と改革モデルの提案
藤原文雄編著
 
[プロローグ]
教師の長時間勤務の是正
 選択肢の一つに教員数を大幅に増やすアプローチ
 厳しい財政状況の下で実現は難しい
 
<「今後の地方教育行政のあり方について(答申)」と「今後の教員給与のあり方について(答申)」が提案した解決のためのアプローチ>(P.12)
・14項目
・教頭の複数配置、副校長制度などの整備
・事務職員の機能強化
 
[部活動を「仕訳」する]
<制度設計なき部活動の過熱>
・2014.6OECD調査 日本の中学校教員が世界34の国・地域の中で最も長時間働いてい る
 突出しているのが課外指導(放課後の活動)
・2016文科省の教員勤務実態調査
 時間外労働が月80時間以上の過労死ラインを越える教員が小学校33.5%、中学校57.7%(自宅への持ち帰り仕事も含めると小学校57.8%、中学校74.1%)
・突出して労働時間が増えたもの 中学校の休日における部活動
<部活動を持続可能に>
・競争型と居場所型に分ける
・居場所の論理の下、部活動の活動量を大幅に縮小すること 総量規制
<民間の活性化>
・トップアスリートや芸術家を目指してがんばりたい生徒は民間のクラブを選択
<競争から降りる>
・静岡市の部活動ガイドライン
1)部活動は生徒の希望による自由参加
2)活動日は平日が週3日、休日は土日どちらか1日
 
[第3章 コミュニティスクールにおける学校支援活動の活性化と教員の勤務負担軽減]
<岡山県矢掛町立矢掛小学校の事例>
・コミュニティースクールの導入によって学校支援活動が活性化すると同時に,校内地域 連携担当教職員配置や学校支援ボランティア・コーディネータの機能強化によって教職 員の勤務負担軽減を成し遂げた
@ボランティアコーディネーターの役割遂行
A地域連携担当職員の選任配置
B学校運営協議会の協議にもとづく設置者への要請行動
 
<山口県宇部市立上宇部中学校の事例>
CS導入によって学校支援活動だけでなく地域貢献活動が活性化し、生徒指導の課題が劇的に改善するとともに学力が向上、教職員の勤務負担軽減を成し遂げた
(詳細はP.43)
 
[第4章 フリースクール等と連携し多様なニーズに対応
 
[コラム@ 地域学校協働活動による教師の働き方改革の可能性]
<茨城県牛久市放課後対策課の取組>
・牛久市教育委員会の大きな特徴は、子どもたちの学校内での活動については「指導課」 が、それ以外の時間の活動支援は「放課後対策課」という教育委員会内の部署が所管し, 両輪で子どもの教育環境の整備を担う教育行政の体制づくりができている。
・うしく放課後かっぱ塾とうしく土曜かっぱ塾
・放課後支援からコミュニティースクール活動へ
 
[第1章 プロフェッショナルとしての働き方改革]
<高度情報技術を活用する>
・労働者ではなく、プロフェッショナルとしての働き方改革を追求しなければならない
・校務支援システムの導入
  勤怠管理、児童生徒の出席管理や指導要録管理、旅費計算その他の事務作業の効率化、  教職員間の連絡調整
・テレワークシステムの整備
・小学校英会話スマートロボットNAO導入(2018.7.9日本教育新聞)
・スマートロボット
 確認テスト省力化、生徒の発言の文字化、補習・自主学習の監督
 
[第3章 学校事務職員の調整機能を活かす]
・平成29年4月、事務職員の職務内容は「つかさどる」と変更された。事務職員は教員をはじめ様々な関係機関や人々と協働し,上質な教育を創造する職務を担っている。その事務職員の調整機能を活かせば働き方改革は進む。
<岡山県における「教師業務アシスタント配置事業」>
→「新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革緊急対策概要」でいわれる「ス クールサポートスタッフ」と同義
業務:@授業準備(資料の印刷、ICT機器の準備)
   A教員の事務作業の支援(調査統計作業、データ入力、会議資料、議事録、ホーム    ページの更新)
   B教育活動に係る事務補助(学校行事の準備、掲示物の作成)
   C課外活動に係る事務補助(PTA会計、部活動会計)
・アシスタント配置事業の成果
 @教職員業務時間
  教頭△7.7% 教務主任△19.8% 研究主任△11.8% 教諭全体の平均△6.6%
 A学習指導時間増加 32%→92%
<事例@>
・児童の疑問を深い学びへとつなぐ
<事例A>
・カリキュラムを調整して行う体育専門指導員の活用
<取組の成果>
・教職員の勤務管理、施設設備の整備、外部関係機関や業者との連絡調整、地域ボランティアや保護者への対応、膨大なメール処理等、教頭の業務と重なりが多い事務職員が,組織マネジメントを意識し,率先して取り組むことで,教頭は学力向上や特別支援教育、生徒指導や危機管理等の学校課題へ対応しやすくなり,確実にリスクマネジメントにつながっている。さらに事務職員がアシスタントの,マネジメントをすることで、文書印刷、文書配布、調査データ入力等が教頭の手を離れ、授業観察による人材育成や支援を要する児童への対応のための時間を生み出している。  
 
[第5章 客観的データを活かした予防・開発型学校経営の展開]
・日本型の学級経営の特徴は、授業と生徒指導を統合的にクラス担任が実施することにある。
・アメリカやフランスでは教員は授業に専念し,他の専門職が生徒指導を担当する「水平型分業体制」、韓国のように専門相談教諭、進路進学相談教諭など教員の職種を増やす「教員分化型分業体制」などが見受けられる
 
[一人で抱え込まない組織作り]
・平成29年度神戸市予算で「教員の多忙化対策」費用を計上
 担任を持たず,教頭の補佐や学力向上の取組等を行う教員として、総務・学習指導担当を小学校に配置
成果と課題:P.161
 
[第4章 教育行政職員による学校運営事務改革]
提案:教育行政職員の専門性を活かし事務職員の力を活かす
<教育行政職員>
・平成27年中教審「チームとしての学校のあり方」答申とりまとめ
・この答申を踏まえ平成29年4月1日から学校教育法37条14項が改正され、事務職員の職務規程は,事務職員は「事務に従事する」から「事務をつかさどる」に変更
・事務職員の活躍の場を広げることとして大きく期待される
・しかし、国立教育政策研究所が2015年に全国の都道府県、政令指定都市教育委員会に対し調査を実施。
 事務職員の職務・人事・人材育成という観点で現状を評価した際、良い3自治体、どちらかといえば良い13、どちらかといえば課題がある38,課題が多い9という結果
 
<京都市教育委員会総務部学校事務支援室の事務遂行体制の仕組みと事務職員の人材育成>
@京都市学校事務支援室の設置
教育行政改革の一つとして平成25年4月教育委員会総務部に設置
目的:事務職員の積極的な学校運営への参画と円滑かつ効率的な事務機能強化による「学   校マネジメント力の向上」と「教員の事務負担軽減」
   児童・生徒数97.888 教職員数8.489人に対し、50名のスタッフが学校経理、ICT環境整備、給与事務、学校文書等について執務を行っている。
1)教頭の業務負担軽減の取組
・学校ネットワークを利用した「教育文書処理システム」が学校・事務局の総合的な情報 化の一環として開発され,全面運用
・このシステムを利用して件名、文書の添付、コメント、処理期限を入力し,文書発送す ることで文書処理に必要な情報が一元的に自動管理される
2)「eアンサー(学校情報回答集約)システム」
・平成22年から導入、調査・照会の業務改善を推進
3)校内予算管理システム
 事務の平準化、より有効な予算執行、公金と預かり金の連携
A事務職員を中核とした取組
1)事務職員出身の「主任指導主事」と「学校事務支援主事」の配置
・学校事務を通して事務職員はじめ、管理職への助言・指導を行う
・教育委員会及び学校での事務改善に向けて調整等を行う
・事務職員の研修を計画し、実施する
4)教育行政職員のあり方
・京都市では採用段階から多くが教育委員会事務局内のみを異動する職員で構成
・教育に関する知識を蓄積した教育行政のプロパー集団が学校教育を支えている
 
 
 
 
 
教員の変形労働時間制(議会と自治体262)
 
2019.12.4公立学校の教員に「1年単位の変形労働時間制」を導入可能とする法案(改正教育職員給与特別措置法)を強行成立
 
今後各自治体で制度導入の是非が争われる
 
[制度のポイント 「1日8時間労働」の原則を崩す制度 但し完全な選択制]
@「1日8時間労働」の原則を崩し,繁忙期と閑散期を設定した上で,繁忙期の所定労働 時間を延ばし(最大一日10時間)、閑散期の所定労働時間をその分短くする。人間は 寝だめや食いだめはできない。健康と生活にとって問題のある制度。
A過酷な労働条件であるため、過半数労働者の合意(労使協定)なしには導入不可、労働 者の予定が立てられるようあらかじめ一人ひとりの労働日と各労働時間を書面で決め  る、などが定められている。厚労省通知では「恒常的な残業がないことが導入の前提」 ともされている。
B公務員は適用除外だったが,今回の法改正で教育職員に限って適用可能とした。公務員 なので労使協定による制度導入はできず(条例主義)、都道府県あるいは政令市の条例 制定で実際に導入できるようになる。
C公立学校での運用目的は「夏の休日のまとめ取り」に限定される。閑散期は勤務時間を ゼロにして休みとし、具体的には5日程度の休みが想定。
D制度は完全に選択制。つまり都道府県が条例を定めるかどうか、条例ができた下で個々 の自治体や学校が導入するかどうか、いずれも自由である。また、各学校で導入するか どうかは毎年度決める。
 各自治体の判断で採用しないということもあり得る(衆議院文部科学委員会での文部科学大臣答弁)