一般質問の要旨  (平成28年3月)

質問者 議席番号 1番  守 岡  等  議員

 


1 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への対策強化について

(1) TPPの評価

  最初にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)対する評価について質問いたします。

昨年10月5日にTPPが大筋合意に達し、今年の2月2日には内閣官房TPP対策本部よりTPP協定(仮訳文)が公表され、部分的とはいえ、ようやくTPPの概要が見えてきました。この内容は、農業にとどまらず、国民生活全体に影響を及ぼすものであり、上山市民の生活にも大きな影響を与える看過できない問題だと考え、市長のTPPに対する評価、所見について質問をさせていただきます

  これまで、私が調査した各分野を横断するTPPの主な特徴や影響について指摘したいと思います。

第一に、TPPにはサービス市場のネガティブリストの特徴がございます。開放しない分野だけを指定する条項で、特定の分野を指摘するポジティブリスト方式と違い、事実上すべてのサービス市場を開放するものです。協定書で取り上げられない様々なサービス、農産物、公的サービスなどの際限のない自由化、市場化につながります。

たとえば、これまでのWTOあるいは4カ国TPPの条文では、自国の農業保護のための補助金は認めるものの、輸出補助金は禁止するということになっています。

今回のTPPで補助金がネガティブリストに入っていなければ、輸出補助金に限らず、国内農業保護のすべての補助金がその対象になる可能性もあります。実際、今回の協定書のネガティブリストに「現行のわが国の漁業補助金は、禁止補助金に該当せず、政策決定権を維持」(内閣官房TPP政府対策本部「TPP協定交渉の大筋合意関連資料」)とあり、農業補助金については触れられていないことから、当市で実施している補助金も禁止補助金となる危険性があります。

また、ラチェット条項という特徴があります。ラチェットとは逆回転を防止する爪歯車のことですが、一度開放された水準は、いかなる場合も逆に戻せないという条項です。日本は社会事業サービス(保健、社会保障、社会保険等)や初等、中等教育などについては、「将来留保」を行い、ラチェット条項は適用されないと政府は説明していますが、たとえば、後で述べる医療についてはTPPの対象ではないとされていたものが、公的機関や金融機関と競争する場合(協定書第10・12条)は例外的に対象に含まれるなど、流動的な要素が含まれています。

次に、投資家と国家間紛争解決(ISDS)手続きの問題です。これはたとえば、日本に投資している外国の企業が、日本の法律、裁判、行政によって被害を受けたと判断するときに、国際仲裁裁判所に訴えることができるという制度です。ISD条項を利用した大国の巨大企業のふるまいが各地で問題になっており、そのことが日本にも大きな影響をもたらすのではないかということです。たばこの健康被害を指摘する広告がたばこ会社に損害を与えたと、その国を訴えたたばこ企業もあるほどです。

また、TPPには「内国民待遇」の要素があります。協定書でも冒頭第2章でまず出てきた後、かなりの頻度でこの言葉が出てきますが、これは日本と同様に相手国の人や企業を扱うということです。たとえば、豚肉の生産者が赤字経営に陥った場合にその赤字を国と農家でつくる積立金から補填する制度を法制化して恒久的な措置にすることは、えこひいきにあたり、もしも積立金から補填するのなら、アメリカやオーストラリアなどその他の国の農家にも補填しないと協定違反になるというものです。

さらに、TPPは「秘密性」の特徴があります。TPPは参加を決めた後にしか全容がわからないシステムです。2月2日に内閣官房TPP対策本部からようやく出された仮訳文は協定全文のほんの一部に過ぎません。いずれは協定文の全文が示されると思いますが、その条文の背景説明を求めた場合でも、交渉過程は4年間秘密なので本質的な部分はぼかされる危険性があります。国民が真実を知らされないままに、国会で批准し、後で見るような国民生活破壊の政策が進行していく危険性があります。

加えて、営利化の特性があり、国民生活のあらゆる分野が市場化、営利主義の影響を受けます。そして、それらを保護しようとする政策を抑制し、多国籍企業の利益確保がTPPの目的だといえます。

  TPPの範囲は30セクションに及び、当市の農業や各分野に多大なる影響を与え

ることが予想され、農業従事者をはじめ、多くの市民がTPPに対する言い知れぬ

安を抱えています。TPPの概要が見えてきた現在、TPPに対する市長の評価、所見についてお伺いします。

 

(2) 本市農産物への影響試算

次に、TPPの影響が大きい本市農産物への影響試算について質問いたします。

 農林水産物で「重要品目は除外」と国会決議しながら、重要5品目に含まれる関税分類上の細目586品目のうち174品目(約30%)の関税を撤廃し、残りは関税削減してしまい、上山市の農業にも大きな影響を及ぼします。

  コメについては、アメリカ、オーストラリアにアメリカ産コシヒカリなど選択の自由のあるSBS方式の国別輸入枠が新たに設定されました。政府は「政府備蓄米の運営を見直し、国別枠の輸入量に相当する国産米を備蓄米として買い入れる」としていますが、それでも価格低下は避けられず、国産主食用米の需給と価格に打撃的な影響を及ぼすことは必至です。

  秘密主義で進行していたTPP交渉ですが、大筋合意で突然、さくらんぼ、りんご、ぶどうなどの関税撤廃も出され、上山市の農業に大変な影響を及ぼします。TPPの実害が発生するのは先のことですが、現在も農業をめぐっては厳しい状況にあります。 2015年農林業センサスの概要が公表されましたが、20%に迫る農家減少率となっており、期を追うごとにその数値が高まっています。また、70歳代前半の農業就業人口の落ち込みが激しくなっており、前世代からの人口繰り込み(農業継続)が減り、リタイアが増大しています。

  今回のTPPは、中高年農業者に離農を決意させ、青年農業者の将来展望を失わせるものになるのは必至であり、上山市の農業、関連産業、雇用など多方面に影響が及びます。食の安全性についても、米国は「日本が科学的根拠に基づかない国際基準以上の厳しい措置を採用しているのを国際基準に合わせる」と主張しています。たとえば、BSE(牛海綿状脳症)にともなう牛肉の輸入基準は、すでに20ヶ月齢から30ヶ月齢まで緩めていますが、国際基準ではBSE清浄国に対しては月齢制限そのものが必要ないことになっているので、まもなく月齢制限の撤廃を米国は要求してくるでしょう。

  また、遺伝子組み換えについても、「TPP協定の概要」では遺伝子組み換えの承認促進や違法な遺伝子組み換え種の混入についての規制緩和、バイオ企業が作業部会に参加することなどを規定しました。このままいけば、遺伝子組み換え食品が当然のように入ってきます。そして、日本政府が安全性のために行ってきた食品表示は、「表示義務のないアメリカの商品に対する差別的扱いである」として、米国企業に訴えられる可能性があり、表示を中止しなければなりません。私たちは遺伝子組み換え食品だけでなく、どんな添加物が入っているのかわからない食品を買わされてしまいます。

  とりわけ、学校給食の食材選びで影響が出てきます。安全な食材を提供しようとしても表示することができない、あるいは地産地消で賄おうとしたら、差別的待遇だと外国企業から訴えられる可能性も出てくるのです。

  このように、TPPによって、本市の農産物や食の安全を取り巻く状況が厳しさを

増してゆく中、本市の農産物生産への影響額がどれぐらいになるのか、試算している

数値があればお伺いします。

 

(3) 対策本部の設置

  次に、対策本部の設置について質問いたします。

  各分野に多様な影響を及ぼすTPPですが、最も国民生活に影響してくるのが医療の分野です。現在、出されている協定文では、医薬品、医療機器で日本の基準変更を要求しています。具体的には「医薬品及び医療機器に対する承認手続きの透明性確保を明確に規定せよ」ということで、特許期間の延長や薬価を決める中央社会保険医療審議会に米国製薬業界の人に意見提出する機会を与えるとしています。当然のことながら、米国の製薬業界代表は、特許権をもとに独占価格の設定をせまり、それが認められなければISD条項による損害賠償を日本政府に求めてきます。今、当市の医療機関においてもなるべく安いジェネリック薬品の使用を進めていますが、TPPはこうした医療努力を無に帰すものです。

  おそらく、今後は外国の高い薬や医療機器がどんどん日本の医療市場に出回り、その結果、我が国の医療費を圧迫し、すべての医療を保険でカバーすることはできなくなるでしょう。その結果、高度な医療は自費でお願いしますということになり、混合診療の解禁と民間医療保険が進出してきます。すでに保険外併用療養費ということで混合診療の部分的解禁が進んでいます。外国人の健診を目的とした医療ツーリズムも県外で広がっています。お隣の仙台市でも樹状細胞ワクチン療法という一種の免疫療法が自由診療として行われており、治療費はセット料金で190万円であることがホームページで堂々と紹介されています。今後、こうした方向が進めば、高度な先進的医療はお金のある人だけが受けられ、お金のない人はますます医療から遠ざけられる医療格差が進行してしまいます。また、高度機能医療は都市部に集中し、地方との格差はますます拡大し、当市の地域医療にも少なからぬ影響を与えるでしょう。

また、現在でも国が公共事業を発注したり、物品を購入する際に、外国の企業参入は可能ですが、TPPでは入札における内国民待遇や地方も含む適用範囲の拡大、そして情報の公表を規定しています。現在、公表されている資料では政令市までが対象となっていますが、今後、対象が拡大される可能性は残っており、対象が拡大されれば、上山市にとっても次のような影響が予想されます。

WTO基準では国際入札の下限額は、建設サービスで国6億9千万円、地方23億円で、設計など技術サービスの場合はそれぞれ10分の1の金額になっています。これが2006年の4カ国TPPでは国、地方にかかわらず、下限額は建設サービス7億6500万円、技術サービス750万円となっており、市町村が設計、規格、調査などの作業を外部に委託する例が増えており、国際入札の対象になる場合が増えてきます。国際入札にあたっては、英語などで対象国に通知することが義務づけられ、膨大な事務作業が発生します。外国企業の参入により、地元の中小企業や自営業者の経営が圧迫されます。これまで地域経済の循環、地域振興をはかるために地元業者への優先発注や、産業振興に向けた様々な対策がとられてきましたが、TPPによってそれらが基本原則に反するとして排除される可能性が生まれます。

また、外国企業の参入にともない、人件費の安い外国人労働者が流入し、地元労働者の賃金低下にもつながります。

  このように各分野に大きな影響を及ぼすTPPですが、このTPPの先行モデルといわれる米韓FTAによって、韓国がいかに深刻な打撃を受けているかを見ておく必要があると考えています。

昨年11月に韓国のソン・キホ弁護士が来日し、米韓FTAの惨状を明らかにしました。FTA発効から1年で畜産業の7割が廃業しました。2014年の米国からの農畜産物輸入額(穀物を除く)はFTA発行前と比べて72.3%も増加しましたが、関税の撤廃された米国産輸入品の流通価格はほとんど変動していないそうです。消費者にとっても恩恵はないということです。医療分野では、「独立医薬検討体制」が構築され医薬会社の意見をくみ取るようになり医薬品の価格が上昇しています。さらに医療特区において株式会社の大規模病院が建設され、自由診療が行われています。

ISD条項についても、外国投資家の圧力により電力や鉄道料金が値上げされただけでなく、韓国内の土地や建物、銀行の売買で巨額の利益を出した米国の投資ヘッジファンドに課税を課そうとしたところ、逆にISD条項で訴えられるというできごとがありました。このできごとは韓国政府の政策に萎縮効果をもたらし、これまで75の法律が制定、改定されているそうです。それは地方行政にも影響を与え、ソウル市は学校給食に遺伝子組み換え食品を使ってはならないとする条例が、米韓FTA違反に当たるということを発表し、変更を余儀なくされているとのことです。

  このようにTPPはあらゆる分野に市場原理を持ち込み、国民の生活や経済活動に大きな影響をもたらすものです。政府は昨年10月9日に「TPP総合対策本部」を設置し、TPPを活用した新たな市場開拓とともに、農林水産業をはじめTPPの影響に関する国民の不安の払拭を図るとしていますが、合意内容の詳細やその影響等についての情報開示はいまだ十分とはいえず、対策も見えないことから市民の間に不安が高まっています。こうした状況の中、上山市独自の対策強化として、総合的に各課を横断し、農協、医師会など関係各分野の有識者も交えたTPP対策本部を設置し、県とも足並みをそろえながら対策をより強化していく必要があると考えます。市長のご所見をお伺いします。

 

2 生活困窮者への支援強化について

(1) 緊急避難所、フードバンクの整備

次に、緊急避難所、フードバンクの整備について質問いたします。

   日々の議員活動、生活相談の中で格差、貧困が進行していることを実感しています。高齢者、障がい者、病人などに特に顕著に表れています。当市におかれましては、福祉事務所や地域包括支援センター、社会福祉協議会などの職員の献身的な奮闘で最低限度の生活が送れるようご支援いただき、心から感謝申し上げます。

  しかし、当市においても、まだまだ生活保護の保護率、捕捉率が低い状態にあります。本来であれば生活保護の対象でありながら、様々な理由で制度を利用していない方が数多くいます。地域や親族の支援があればいいのですが、そうした支援も受けられず、孤立している方々も多いように見受けられます。これまでの事例を経験し、改善すべきと感じた事項についてお伺いします。

失業者やシングルマザーなど生活困窮者を対象にした緊急避難所の設置、フードバンクなどの食糧支援を行う必要があります。市内の業者や団体とも協力しながら、市の責任でこうした緊急対応のシステムを整備していく必要があるのではないでしょうか。生活困窮者を対象にした緊急避難所、フードバンクの整備について、市長のご所見をお伺いします。

 

(2) 生活保護に至る前の段階の方への緊急的な支援

現在、当市においても、生活保護に至る前の段階の方が見受けられ、最も困難な状況にあります。本市としても生活困窮者自立支援法に基づいて相談支援事業を行っていますが、今後、さらに居住確保支援、就労支援、緊急的な支援などを整備すべきだと考えます。特に、緊急的な支援として、手持ちの生活費のない緊急性のある人に対しては、手続きを簡素化して、その日の生活費を貸し付ける制度の創設を提案します。市長のご所見をお伺いします。