一般質問の要旨 (平成30年12月)
質問者 議席番号 1番 守 岡 等 議員
1 認知症の方が安心して暮らせるまちづくりについて
認知症とは、様々な原因で脳細胞が壊れてしまったり、働きが悪くなったために認識力や記憶力、判断力といった社会生活に欠かせない能力が衰え、生活に支障をきたす状態をいいます。厚生労働省の調査は2015(平成27)年の時点で
525万人の認知症の方がいることを明らかにし、予備群も含めると800万人に及ぶということです。さらに団塊の世代が75歳以上になる2025(平成37)年には認知症の方は現在の1.5倍の700万人を超え、軽度認知症の方も含めると約1,300万人となり、65歳以上の3人に1人が認知症患者あるいはその予備群ということになると推定されています。
本市においても、2018(平成30)年4月1日現在1,582人の認知症の方がおり、軽度認知症の559人を含めると合計2,141人となっています。まさに超高齢化社会の下で、誰もが認知症になる可能性があり、日本医師会は認知症を精神疾患ではなくcommon(コモン)common(コモン) disease(ディジーズ)disease(ディジーズ)(一般的な病気、よくある病気)と定義しています。
かつて認知症は治らない病気、治療不可能な病気といわれていましたが、今日では医学・看護学の進歩で認知機能検査や遺伝子検査で状況を判定し、予防プログラムやケア技法の行使によって認知症の有病率を劇的に減らしたり、認知機能の改善を図ることも可能になっています。
こうした状況の下、厚生労働省は2015(平成27)年に認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定し、7つの柱にもとづく取組を定め、本市でもその具体化が始まっています。認知症サポーターの養成、認知症初期集中支援チームの設置、認知症ケアパスの作成、認知症カフェの設置、高齢者おかえりネットワークの実施、脳活健幸教室による認知症予防など多彩な取組が展開されています。
新オレンジプランの締めくくりの中で国は「認知症高齢者等にやさしい地域は、決して認知症の人だけにやさしい地域ではない。コミュニティの繋がりこそがその基盤となるべきであり、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを通じ地域を再生するという視点も重要だ」と述べています。こうした視点に立って、認知症の方が安心して暮らせるまちづくりについて質問・提案するものです。
(1) 実態調査の実施
認知症の方、およびその家族はお互いに大変な困難を抱えて暮らしている事例がほとんどです。共稼ぎ率が高い本市において、老々介護を強いられたり、介護のために仕事を辞めなければならない事例もあります。特に認知症介護の場合、認知症の方本人の散歩や徘徊につきそうボランティア、通院やレクリエーションにつきそうボランティアなど、介護保険制度にはないサービスを求める声は大きいものがあります。また、デイサービスの中で役割を持たせることによって比較的生活の質
(QOL)を維持していた方が、施設や病院に入所・入院したことによって急速に認知機能が低下するなど、その方に合ったサービスが提供されない事例もあります。特に軽度認知症の方は適切なサービス提供によって症状が改善する場合があるにもかかわらず、適切な対応がされないまま症状が進んでしまう問題も指摘されています。
また65歳未満の若年性認知症の問題もあります。若年性認知症の場合、現役の就労中に発症するケースが多く、子どもの教育費など家計に与える影響も大きいものがあります。本人の就労継続や社会参加への意思も強いことから、そうした視点からの支援も必要となります。
こうした様々な実態について事例調査・分析を行い、重症化を防ぐための必要なサービス提供につなげていく認知症実態調査の実施を提案します。市長のご所見をお示しください。
(2)認知症検診の取組
寿命が延びたことにより認知症を発症する割合も増えている中で、がん以上に早期発見・早期治療の必要性が増しています。高齢者だけでなく、働き盛りの方々も認知症検診や診断検査を受け、認知症になるリスクを減らしていく取組が必要となります。認知症は、症状が出始める20年以上前から脳に異常が起きているといわれています。その段階で察知して予防を始めればMCI(軽度認知障害)の前の段階で防ぐことも可能であるといわれています。アメリカでは軽度認知障害と、さらにそれ以前の未発症状態の「プレクリニカル認知症」の2段階が概念化されており、両方とも精度の高い画像診断などで発見が可能だということです。
また、近年は遺伝子による診断も発達しており、将来認知症になる可能性があるかどうかを調べるApoE(アポイー)ApoE(アポイー)遺伝子検査があります。この検査でわかるApoE遺伝子のなかで、ApoE4(アポイーフォー)ApoE4(アポイーフォー)は最も強力なアルツハイマー病の遺伝的危険因子であると言われています。ApoE4を片親から受け継いでいる場合は、アルツハイマー病にかかる生涯リスクは30%に上昇し、両親から受け継いでいる場合は50%に上昇するそうです。遺伝子検査を行い予防プログラムを始めることによって、認知症の有病率を劇的に減らせることが指摘されています。この遺伝子検査は、県内でも1万数千円で受けられる医療機関があり、全国的にはインターネットを利用した検査も可能となっているようです。
こうした遺伝子検査以外でも、長谷川式簡易知能評価スケールなどに代表される神経心理学的検査、CTやMRIを利用した脳画像検査、甲状腺機能や血中ビタミン濃度を調べる血液・髄液検査等によって認知症の診断が可能となっています。
兵庫県明石市では75歳以上の市民を対象に、認知症検診の助成制度を設けています。明石市ではまず、認知症チェックシートに記入・提出していただき、チェックシートで認知症の疑いがある方に相談可能な医療機関一覧表を送り、さらにMRI費用など上限7千円の助成を行っています。さらに医療機関で認知症と診断された方には、居場所がわかるGPSを利用した端末の基本利用料1年間分を無料にするか、もしくはタクシー券6千円分が支給されるそうです。
本市においても認知症の早期発見・早期治療につなげるために、以下の事項について取り組むことを提案します。
認知症の簡易的なチェック表をより多くの市民が利用できるよう、本市のホーム
ページにリンクを貼るとともに、市内の医療機関窓口に備え付けたり、地区会で回覧すること。
A特定健診受診者で、希望する方に認知機能検査(認知症検診)を実施すること。
B市で行っている人間ドックに脳ドックを取り入れること。
C認知機能検査および脳ドックに助成を行うこと。
以上の提案について、市長のご所見をお示しください。
(3)生活へのサポートの充実
ア 介護技法「ユマニチュード」の市民への普及
認知症になると「恍惚の人」という言葉が示すように、周囲とのコミュニケーションが遮断され、ひどくなると暴言・暴行や激しい介護拒否が現れる場合もあります。そうした認知症の方について寝たきりのままにしておいたり、身体拘束で身動きできない状態で介護している事例もあるようです。
こうした認知症介護にあたって、ユマニチュードという介護技法が最近注目を集めています。ユマニチュードは認知症の方と介護者は平等であるという考え方に基づいて、認知症の方を「患者」や「介護対象者」ではなく、一人の人間として尊重し、同じ人間として向き合い、接することを基本にしています。認知症の方は人間として扱ってくれることにより、介護者を信頼して心を開き、それまで拒否していた介護を受け入れるようになっていきます。どんな重度の認知症の方でも、心の基本的な部分は残っており、しかしながらそれを外部に伝える手段がないために、ストレスがたまり、暴言・暴力と言った周辺症状が発生するのだといわれています。
ユマニチュードは「見つめる」、「話しかける」、「触れる」、「立つ」という4つを基本にして介護を行うものですが、単なるテクニックではなく、4つの基本をもとにして、認知症の方と介護者との心の絆を結ぶことが大切にされています。認知症の方と介護者の間に共に「あなたが必要だ」「あなたは大切な人だ」という堅い信頼関係を結ぶことが介護の基本にあり、こうした考えで認知症の方の自立・自由に結びつける介護を実践するわけですが、様々なマスメディアでも報道されているように、すばらしい成果を生み出しています。これまで一切話すことがなく、眠りっぱなしの方が立ち上がって会話を交わすようになる、暴言・暴行が激しく、身体拘束するしか方法がなかった方が、赤ちゃんを抱っこするようになる。これらは私自身、身近で体験した事例です。
こうしたユマニチュードの実践の広がりは、認知症の方の症状改善につながるだけでなく、家族や介護者の負担軽減、自治体の医療費・介護費の軽減にもつながります。何よりも人間性を重視した取組により、市全体で認知症の方を受け入れ、安心して暮らせるまちづくりを進める理念を向上させることにつながります。
介護技法「ユマニチュード」の市民への普及に向け、「ユマニチュード市民講座」を開催し、その理念と実践を広げていくことを提案します。
イ 認知症サポーターのステップアップ講座によるボランティアの養成と活用
今後、認知症施策を進めるにあたっては、市全体で支え合う、まちづくりの一環としての取組が求められます。そうした認知症の方を温かく支える施策の中心になるのが認知症サポーターです。本市では2018(平成30)年10月現在で
3,425人が認知症サポーターとなっており、そのうち小中学校で受講した人は1,421人ということです。
認知症サポーターとは、認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域で認知症の人や家族に対してできる範囲での手助けをする人です。3千人を超える本市の認知症サポーターは、認知症の方が地域で安心して暮らせるように何かをしたいと大きな希望を胸に秘めています。そうした認知症サポーターを地域の力として活かす取組として、高齢者の支援活動を希望するサポーターに対して認知症サポーターステップアップ講座を開催し、認知症支援ボランティアの養成と活用を図っていくことが求められています。認知症サポート医養成研修を修了した医師、認知症地域支援推進員などを講師にして、認知症サポーターのさらなるステップアップを図り、付き添い、安否確認、傾聴などの支援ボランティアにつなげていく必要があります。
また、新オレンジプランでは認知症カフェを全市町村に設置し、認知症の方や家族が関係者やボランティアと相互に情報を共有し、お互いを理解する取組がうたわれています。本市でもすでに3カ所の認知症カフェが設置されていますが、県内外のさらに進んだところでは、認知症カフェでなじみとなったボランティアが認知症の方の自宅を訪問し、本人と一緒に過ごす「認とも」の取組が広がっています。「認とも」の取組は、一定の技能が必要であることから認知症サポーターのステップアップ講座を修了した人が担っているようです。
このように本市でも認知症サポーターのステップアップ講座を開催し、認知症支援ボランティアの養成と活用、「認とも」の取組を推進していくことを提案します。
ウ 高齢者見守り事業におけるGPSの活用
また、認知症になると見当識障害や記憶障害などの中核症状出現の影響や,ストレスや不安などが重なって、絶えず歩き回る「徘徊」が起こることがあります。徘徊は本人にとっては目的のある行動と言われ、買い物に行く、探し物を探す、畑に行くなどの理由で出かけるものの認知機能が低下しているので目的を達成することはできず、何日も徘徊したり、見知らぬ土地で保護されたり、最悪事故に遭う場合もあります。
こうした徘徊する方を地域で見守るために、本市では「高齢者おかえりネットワーク事業」を行い、49人が登録されているということです。地域の中で暖かく見守りを行い、徘徊してももとの居場所に帰れるように今後も充実させたい事業です。
近年は、情報機器を活用した認知症見守りネットワークの取組が発展しています。その一つがGPSの活用です。これは徘徊で外に出ていても靴や衣服に装着したGPS端末で居場所を調べることができるシステムです。最近は国産の人工衛星が打ち上げられ、ますますその精度が充実しています。端末を利用して現在の位置情報が確認できるため、行方不明になった場合でも探し出すことができます。
奈良市では、2015(平成27)年9月から、認知症等で行方不明になる可能性のある高齢者の情報を事前に登録し、所在がわからなくなったときの早期発見に役立てる「安心・安全なら見守りネットワーク」を開始しました。希望する家族にGPS端末を貸し出し、居場所を検索・特定し、より早期発見に努め、事故の防止を図っているということです。市が初期費用(加入料金と付属部品)7千円を負担し、利用者は1人月額500円の基本料金と、位置情報の取得を利用するごとに1回200円を支払います。こうした取組により行方不明者の早期発見につなげているとのことです。本市でもGPS端末を活用した見守り事業の発展を提案します。市長のご所見をお示しください。
認知症の問題を考える上で、シスター・メアリーというアメリカの修道女の話が有名です。シスター・メアリーは101歳で亡くなりましたが、死んだ後に脳を解剖した結果、アルツハイマー型認知症であることが判明しました。しかし、亡くなるまで認知症の症状は全くなく、修道院での規則正しい生活や心のあり方が大きく影響したのではないかと言われています。私は、脳がかなり萎縮していることから認知症の状態にあったことはまちがいないと思います。ただ、修道院という愛と思いやりに満ちた空間が、記憶障害など認知症の中核症状は進行しながらも、徘徊・暴言・暴力などの周辺症状の悪化を防ぐことができたのではないかと推測されます。
認知症の方は今後も増えることが予想されますが、どんなに認知症が進行した方でも市民の温かいまなざしと見守り、ふれあいの介護などによって心穏やかに人間らしく暮らせることは可能であると考えます。
以上、認知症の方が安心して暮らせるまちづくりについての第一問とします。