1.観光振興による交流人口の拡大について
(1)観光基本計画の策定
 私はこの間、人口減対策を上山市政の最重要課題として位置づけ、福祉のまちづくりによる雇用対策、中心市街地の活性化、結婚・出産・子育てしやすい環境の整備、長期的視野に立ったまちづくりなどを問題提起してきました。
 今回は、観光振興による交流人口の拡大、すなわち、観光産業を発展させ、市内経済の活性化をはかり、市の財政運営の健全化をはかる取組について問題提起するものです。
 いま、本市の人口は5年間で2千人、年間で400人ずつ減少しており、3万人を割るのも時間の問題となっています。特に、年少人口の減少率が高いため、継続的に人口減少が進み、過疎化・高齢化はますます深刻な問題になると予想されます。人口減少は何よりも経済力の衰退を招き、本市の財政難、サービス低下は避けられません。
 総務省の資料によれば、定住人口一人あたりの年間消費金額全国平均は124万円となっており、人口が100人減ったということは年間およそ1億円の消費が減ることになると試算されています。本市にあてはめると、年間400人定住人口が減少したことによって4億円の消費が減る計算になります。
 こうした状況の下、交流人口の拡大によって市内経済力を維持する取組が求められています。そして、その中心に観光振興が据えられるものだと考えています。
 平成19年に策定された上山市観光振興基本計画においても、観光産業の位置づけを明確にし、本市を訪れる観光客の消費額は、宿泊客40万人、日帰り客10万人(平成17年度の到達)の場合、宿泊等に要する直接消費額は約150億円で、その1.6倍とされる波及効果を含めると約240億円となり、市内工業製造品出荷額570億円、商品販売額300億円に次ぐ売上額となっていることが示されています。また、観光客の消費は地元商店の売り上げ、地場産品の消費にも連動し、経済波及効果は極めて高く、総合産業として本市経済の活性化と発展に多大な影響を及ぼしているとしており、観光に関連するサービス業の就業者数は1500人となっており、雇用の面でも重要な役割を果たしていることが示されています。
 観光庁からも、先ほど紹介した定住人口一人あたりの年間消費額124万円は、旅行者の消費に換算すると外国人旅行者10人分、国内旅行者(宿泊)26人分、国内旅行者(日帰り)83人分にあたると試算が出されています。この数値を本市に単純に当てはめるならば、年間400人の人口が減少しても、4千人の外国人旅行者を受け入れるならば市内経済を維持することができる計算となります。
 それでは現在の本市の観光客受入状況はどうなっているでしょうか。
 本市の温泉旅館宿泊者数は1980年代までは60万人前後で推移していましたが、1998(平成10)年に40万人台、2004(平成16)年に30万人台、2010(平成22)年に20万人台まで落ち込み、2016(平成28)年度は25万8千人と過去最低となっています。観光者数も1992(平成4)年度の156万人をピークに、2016(平成28)年度には65万人にまで減っています(観光課調べ)。この背景には団体旅行から個人旅行への形態の変化、不況の深刻化といった一般的な傾向もあると思われますが、本市固有の特徴を分析する必要があると思われます。
 山形大学の研究室では5年にわたる継続的な研究・分析を行ってきました。そうした専門家の意見も加味した本市の観光課題を整理すると以下のようになります。
@2012年に山形大学が行った宿泊客へのアンケートによると、旅行の目的として「休養」をあげたものが一番多く(45.6%)、「観光」(36.0%)を上回っていることです。これは観光地の魅力で本市を選んだのではなく、旅館の魅力が宿泊地選定の大きな理由になっていることを示しています。こうした観光分析を受けて、今後は、高齢者を中心とする「休養」を目的にした方たちを維持しながらも、上山における観光資源を目的とする着地型観光・体験型観光の魅力を訴えていく必要があります。そのためには、旅館から外に出て、本市の歴史・文化遺産の理解や本市の農産物の飲食といった付加価値を付与し、観光地としての魅力を総合的に高める必要があります。
Aインバウンド対策が遅れていることです。2015年の外国人延べ宿泊者数は全国で6,561万人であるのに対し、山形県は8万人にすぎません。今後外国人観光客を受け入れるルートを切り開くとともに、外国人を満足させる地域資源の発掘と宣伝、受入体制の整備をはかる必要があります。
B山形大学の調査に参加した学生からは、土日のバスが運休になるなどの二次交通の未整備、上山市ならではのお土産品が少ないこと、景観対策が不十分といった声が寄せられています。また、若者対策として上山市の公式twitter、夜に楽しめる観光スポット、ホームページの整備などが指摘されています。
 本市ではこれまで平成19年に策定された「上山市観光振興基本計画」が観光施策の基本と位置づけられていました。そこに示されている計画内容はどれもすばらしく、本市の観光振興に大切なことが網羅されていると思います。10年の計画が終了したいま、そのすばらしい計画がどのような到達にいたり、達成できなかったものについてはその要因を深く分析する必要があると考えます。特に観光の産業化という点で産学官金の連携、農工商の連携という観光のまちづくりという視点からもう一度練り直し、観光客の求めるメニューづくり、受入体制の整備をはかっていく必要があるのではないでしょうか。それをしないままでは今日の衰退傾向からは脱し得ず、人口減少と相まってますます活気のないまちになってしまいます。
 とりわけ、いま日本の各地で活気を見せている観光地では、着地型・体験型観光という新しい観光魅力を見いだして、そうしたものを観光業者だけでなくまち全体をあげた取り組みとして成功させています。本市においても、たとえば農業体験観光を農家の収入増と結びつけた食と農の共同企画、福祉と観光を結合させたユニバーサルデザインに配慮したまちづくり、児童が地域の歴史・文化、観光ポイントを調べ地域の魅力を観光客に知らせる教育と観光のコラボレーション、地元ワインと食材を楽しめるワイナリーとレストランの連携、春雨庵と禅体験など日本の歴史と文化の接合など、第7次上山市振興計画で示された観光振興・交流人口拡大の方針を、市民・事業者・産業振興団体・行政が一体となって、市の活性化・産業づくりの視点で具体化をはかるために「観光基本計画」を策定することを提案します。観光関係者のみならず、市の総力を挙げた観光振興が、今後の交流人口の拡大、産業の振興、財政の健全化に結びつくものとなります。市長のご所見をお示しください。
 
 こうした計画に基づいて、早急にかみのやま温泉DMOの早期設立に取り組むべきだと考えます。
 
(2)かみのやま温泉DMOの早期設立
 DMOというのはDestination Management(Marketing) Organizationの略で、直訳すれば観光のマーケティングや商品開発などを一体的に進める組織のことをいい、一言で言えば、観光地域づくりを行う法人という意味です。観光庁によれば「日本版DMOは、地域の『稼ぐ力』を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する『観光地経営』の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人」と定義されています。
 そして、DMOが必ず実施する基礎的な役割・機能(観光地域マーケティング・マネジメント)として、
@DMOを中心として観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成
A各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPI(実績・目標)の設定・PDCAサイクルの確立
B関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組み作り、プロモーション
を挙げています。
 また、地域の官民の関係者との効果的な役割分担をした上で、例えば、着地型旅行商品の造成・販売やランドオペレーター(旅行サービス手配)業務の実施など地域の実情に応じて、DMOが観光地域づくりの一主体として個別事業を実施することも考えられるとしています。
 いま、北海道ニセコ町、新潟県湯沢町、長野県飯山市、岐阜県高山市、大分県別府市などDMOによる観光地域づくりを進めているところが増えています。
 観光庁では日本版DMOの確立を促進するため、日本版DMO及びその候補となり得る法人を登録する制度を創設しています。そして、昨年11月には日本版DMO候補法人のうち、登録要件を満たす41法人を日本版DMOとして認定登録しています。
 こうした国の政策の下で、いま、「山形・天童・上山三市連携観光地域づくり推進協議会」(山形DMO)が結成され、さらに民間活力によるその商品化・具体化を図る「おもてなし山形株式会社」(山形DMC)が創設され、広域的な取り組みが始まっています。
 そこでは観光戦略の企画立案、マーケティングなどを担う企画担当部会、着地型旅行商品の企画・造成、プロモーションを行う旅行商品造成担当部会、情報発信業務などを行う情報・システム担当部会などが設置され、三市が連携した広域的な取り組みが行われています。
 この山形DMCの観光地域づくりを進めるにあたって、天童・山形・上山の各温泉地においてDMOを設立し、宿泊施設等の業務システムの共有化をはかり、従業員のシェアをはかることで従業員の確保と新たな雇用を創出し、あわせて未利用施設を宿舎として再生をはかり温泉街の活性化をはかることが打ち出されています。そして、すでに天童温泉DMCが設立されています。
 私はこうしたかみのやま温泉DMOを早期に設立させ、本市の地域資源整備、観光メニューの造成をはかりつつ、広域DMOとも協力してインバウンドも含めた幅広い観光客の受入を進めるべきだと考えます。
 たとえば、山形大学が行った本市の観光分析にもあるように、これまでは旅館の魅力で本市を選択する観光客が多かったわけですが、今後はそれに加え、本市独自の観光メニューを選んでもらう必要があります。そのためには本市の観光資源をいかした体験型観光メニューを整備していく必要があります。これまでにもいくつかの体験型観光が行われてきましたが、たとえば上山城・武家屋敷周辺での着物着付け体験、折り紙・習字・茶道の体験、侍体験など、地域資源を発掘して新たな体験型観光メニューを作り上げていく必要があります。とりわけインバウンド観光においてはこうした体験型・着地型の観光メニューが効果的で、むしろ最近では都会の大型観光施設よりも地方の日本らしい地域を訪れる外国人観光客が増えているようです。先ほど述べた高山市に外国人観光客が訪れるのもこうした理由からだと考えられます。本市の自然環境、歴史、伝統文化などを観光資源として整備するならば、外国人に対し典型的な日本文化を示し得るものだと考えます。
 こうした本市独自の観光メニューをつくりあげていくためにも、かみのやま温泉DMOを創設すべきだと考えています。
 これまでにも市民はじめ、観光関連業者や行政が観光振興に努めてきたわけですが、交流人口の拡大やまちの活性化という共通のベクトルで、しかも利益を生み出すという目的で統一的に機能してきたとはいえない状況があります。これはそれぞれの業者・個人の事業目的が違うため当然といえば当然であるわけです。
 しかしDMOは観光地経営・観光地づくりという共通の目的を持ち、観光商品の開発と販売、旅行サービスの手配といった共通の事業を行う経営体です。当然経営的に自立し、責任の所在も明確です。非常にシビアな側面もありますが、本市の観光客を増やすためにはこうした組織が必要だと考えます。
 かみのやま温泉DMOの創設について、市長のご所見をお示しください。
 
 
2.安心して産み育てられる環境整備について
(1)宿泊型産後ケア事業の実施
 いま育児ノイローゼ等による痛ましい事故・事件が連日のように報道されています。ただでさえ不安を感じる子育てですが、核家族化や地域とのつながりが希薄化する社会状況においては支援が必要な母子が増加していると思われます。
 本市においても、市外から嫁いできたため身近に相談できる人がいない、夫をはじめ子育てに対する協力が不十分だ、産後うつがひどく子育てに自信が持てないという深刻な声が寄せられています。また10代および20代前半の出産もあり、障がいを抱える方の出産もあると伺っています。私たちが産後ケアについて視察した先の説明では、出産年齢が早いほど子育てに対するリスクも増えるということを学びました。
 出産後のマタニティーブルーを体験した方は多いと思いますが、「湯ったり健康かみのやま21」アンケート調査でも57.6%の保護者が「育児に困難や不安を感じることがある」と答えており、育児支援の取組は重要になっています。
 本市でも妊娠から出産、子育てまでの切れ目のない支援の充実をはかっており、妊婦健診や乳幼児健診、療育相談などが取り組まれています。
 一方で、産後すぐは母親が心身ともに不安定な状態にあるにもかかわらず、本市ならびに近隣自治体においても産後ケアに取り組む医療機関が少なく、支援が十分とはいえない状態にあります。
 このため、山形県は産院退院後から産後3〜4カ月ごろまでを「支援の手薄な期間」と位置づけ、母親が赤ちゃんと一緒の生活に早く慣れるよう、助産師や保健師等が授乳や子どものケアなどに対してアドバイスを行う「宿泊型産後ケアモデル事業」を平成28年度に実施しました。
 この事業は、2泊3日を基本として、希望者には最大6泊まで可能とするもので、上山市の旅館の他、山形市のビジネスホテルや研修施設を利用し、2泊3日の費用は食費込みで5千円から1万5千円というものでした。期間中は助産師3人が交代で付き添い、赤ちゃんの発育チェック、授乳や沐浴指導などを行ないました。
 産後ケアを利用した方は、「頼れる人や親しい人が近くにいなくて夜泣きなど大変でしたが、助産師と朝から夜まで一緒に過ごすことで、これもあれもと聞きたいことがどんどん出てきた。三日間で助産師さんたちに支えてもらい、疲れが癒やされた。こんなに手をかけてもらったのだから、明日からまたがんばれそう」と感想を語っています。
 お母さんたちが孤立せずに、安心して産み育てられる環境を整備するために、宿泊型産後ケア事業を実施することを提案します。
 市長のご所見をお示しください。