一般質問の要旨   (令和3年6月)

質問者 議席番号 4番  守 岡  等  議員

 

1 コロナ禍における子どもたちの自殺防止対策の強化について

 新型コロナウイルス感染症をめぐっては、依然収束の見通しが立たない中、医療・経済・教育など様々な面で深刻な影響が出ています。

  特に心身の成長が発達期にある子どもたちへの影響が心配です。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020(令和2)年の春には、卒業式や入学式などが制限されただけでなく、長期間の休校措置が子どもたちの心身の成長に影響を及ぼすことが懸念されました。

  私は、2020(令和2)年の6月定例会で、子どもたちの不安やストレスを解消するための問題提起を行いましたが、現場の教職員の多大なる奮闘で、子どもたちも一定落ち着きを取り戻したように思われました。

  しかし、新型コロナウイルスがもたらした影響は、想像以上に大きなものであったことは、その後発表された自殺者統計が物語っています。自殺者対策の強化が図られ、ここ数年、全国の自殺者数は減少傾向にありましたが、コロナ禍のもと、2020(令和2)年の自殺者数は、前年に比べ912人増の21,081人で、このうち19歳までが118人増、20〜29歳が404人増と若い世代の増加が目立っています。県内でも2020(令和2)年に10代の若者が9人自殺し、うち村山地方は4人となっています。また女性の自殺者数が増えていることも見逃せません。

  若者の自殺が増えている背景には二つの傾向が指摘されています。一つは、家庭不和の問題です。コロナ以前は、学校、友人関係など逃げ場があったものの、コロナ禍のもとでは家庭内にとどまる機会が増え、親子関係や夫婦仲の悪化が直接子どもの心に深い傷を与えたのではないかということです。

  二つ目には、将来が見通せない心理的不安の問題です。コロナがいつ収束するのか、学校はどうなるのか、親の収入はどうなるのかといった将来的な展望が持てない中、芸能人の自殺のニュースに反応したり、衝動的に死を選んでしまったりする事例もあるようです。

  特に、希望があるかどうかという問題が、人間の生きる意欲に大きく影響することは、第二次世界大戦下のアウシュビッツ強制収容所の体験者が物語っています。フランクルの「夜と霧」という書物は、将来を見通せない過酷な環境の中、どんな状況にも意味はある、自分は誰かの何かの役に立っている、誰かに愛されているといった、かすかな希望、生きる意味を持っていた人だけがあの過酷な強制収容所において生き延びることができたことを明らかにしています。

  いま、子どもたちは未曾有の危機のただ中にいます。自殺という痛ましいできごとは本市にも無関係なことではありませんし、現に不登校の増加という形で子どもたちのSOSが発せられています。こうした中、私たち大人が子どもたちが危機を乗り越え、希望を持てるように最大限の対策を講じることが求められています。

 自殺防止対策を進めるにあたっては、日本で最も自殺率の低い町、徳島県旧海部町の調査・分析を進めた岡檀(まゆみ)氏(和歌山県立医科大学講師−当時)の研究が参考になります。

 この研究は、旧海部町の自殺予防因子として、他の町とは違う5つの特徴を明らかにしました。

@人や考え方の多様性が認められている

  海部町の人々は、コミュニティ内の多様性を重視します。他人の自由も支持する代わりに、自分の判断にも他人から踏み込まれたくないという、日本人の特性としてよく言われる「同調圧力」が極めて低い地区となっています。

   学校においても、一つのクラスの中にいろんな個性があった方がいいということで、特別支援学級の設置に反対したとのことです。

A人物本位主義を貫く

  江戸時代から続く相互扶助組織も、年長者が威張ると言うことはなく、年少者の自主性を尊重し、失敗しても再起のチャンスを与えられています。人事においても慣例ではなく適材適所を重視します。たとえば教育長人事においても、問題解決能力や企画力が評価され、41歳の教育経験のない商工会議所の男性が就任しています。

B町民の間に社会参加の意識がある

  旧海部町の人々は、社会に対する個人の影響力を信じ、主体的に関わり、権利を堂々と行使します。自己肯定感が高いということです。反面、汚職などの腐敗は断固拒否し、選挙における票のとりまとめすら行われません。高齢者にありがちな「迷惑をかけている」という遠慮や引け目はありません。

C病は市(いち)に出せ

  病気など何か問題が生じたときには、自分で抱え込まず、積極的に誰かに相談する気風が確立されています。たとえば誰かがうつ病になったと聞けば、普通であれば表沙汰にせずに隠しておこうという意識が働きますが、旧海部町の人々はうつ気味だと聞けばすぐに訪問して早期受診を勧め、その結果うつ病の受診率は高く、重症化を防いでいるということです。

Dゆるやかにつながる

  旧海部町の人々は住民同士の関係は積極的ですが、粘着的ではないという特徴を持ちます。他人に対して「関心」は強く持つものの、多様性を好む気風があるのでそれが息苦しい「監視」にはならないということです。「同調圧力」の低下につながっています。

 

  旧海部町の特徴を一言で表現するなら、いろんな人がいて当然、その中で自分の考えをしっかりと持ち、理にかなわないことには従わない、そして困っている人がいたら積極的に援助するというものです。

  こうした旧海部町の分析を通して明らかにされた自殺予防因子の考えも参考にしながら、本市における自殺防止対策を進めるために以下のように問題提起するものです。

(1) いのちを守る相談活動の強化

ア SNS等を活用した相談活動の実施

  自殺予防の要は、当事者の気持ちを汲み上げる相談活動が基本です。これまでは電話相談が主流でしたが、SNSを主な通信手段として使う子どもたちは、電話をかけることに抵抗がある人も多く、「いのちの電話」の相談でも若者世代からの電話相談は減少傾向にあるということです。そこで、いまの子どもたちの実情に即して、SNS等を活用した相談活動の実施を提案します。

  具体的には市のホームページ等にLINEの「友だち登録」に必要なQRコードを掲載し、これを通じて相談が行えるようにするというものです。直接、教育委員会や学校のホームページ等を通じて、メールを送ることも有効ではないでしょうか。

  また、千葉県ではインターネット上の検索サイトにおいて、自殺関連キーワードの用語検索を行うと、検索結果の上位に相談窓口のリンク先が表示される「検索連動型広告」の取組を開始しています。2020(令和2)年10月現在、50万4千件の広告表示があり、そのうち相談窓口を案内した件数が1万9千件(約3.8%)だったそうです。

  子どもたちは不安や悩みを抱えながらも、どこにどうやって何を相談したらいいのかわからない状態にあります。このような、SNS等を活用した相談活動を実施し、自殺予防対策の強化を図ることを提案します。教育長のご所見をお示しください。

 

イ 子どもたちのSOS信号をキャッチする心身状態評価と支援促進システム(RAMPS)の活用

  RAMPSはRisk Assessment of Mental and Physical Status の略で、自殺リスクや精神不調の見過ごしを防ぎ、保護者や医療機関への説明など、その後の必要な支援に役立てることを目的に開発された心身状態評価と支援促進システムとされています。

  使う場所は学校の保健室で、訪れた子どもにこのソフトが入ったタブレット端末を手渡し、まず、示される11の質問に答えてもらいます。

  「食欲はあるか」などの比較的、答えやすい質問が徐々に「『生きていても仕方がない』と考えたことはあるか」とか、「自分で自分を傷つけたことはあるか」といった質問に変わっていきます。

  その後は、タブレット端末を返してもらった養護教諭が端末に示される質問を子どもにしていきます。

  内容は、最初に答えてもらった11問の回答結果に応じて変わっていき、例えば、「『生きていても仕方がない』と考えたことがある」と答えた子どもには、「死んでしまいたいと思ったり、眠ったまま二度と目が覚めなければいいと思ったことがあるか」とか、「死ぬ準備をしたり自殺しかけたりしたことがあるか」などとさらに踏み込んでいきます。

  そして最後に、端末上に「自殺リスク」が3段階で示されます。

  質問は、精神科医が実際の診察の際に使う内容で、開発者の精神科医は、このソフトを活用することで、踏み込みにくい質問でも気軽に話せる雰囲気を作れるほか、教諭の知識や経験にばらつきがあってもやり取りの質を担保できると話しています。

  結果は、必要に応じて担任の教諭や保護者、医療機関とも共有していて、すでに活用している学校では、「全く問題ない」と思われていた子どものリスクが明らかになったり、「なんとなく心配」と思われていた子どもが、実際には自殺の計画まで立てているほど深刻だったりしたケースなどがあったということです。

  現在、新潟・東京・茨城の中学、高校など36校で導入されていますが、個人のスマートフォンやタブレットを使って実施する方法も開発され、学校では答えづらいと感じる子どもたちも、いつでもどこでも回答することができるということです。とらえにくい子どもたちのSOS信号をキャッチし、必要な支援につなげるRAMPSの活用を提案します。教育長のご所見をお示しください。 

 

(2) 特別活動や総合の時間を活用した自己肯定感の向上

  日本の若者の自己肯定感や自尊感情が低いことは、様々な国際調査が示しています。2010(平成22)年に財団法人日本青少年研究所が日本・アメリカ・中国・韓国の4カ国の高校生を対象に実施した意識調査では、「私は価値のある人間だと思う」という項目に対し「全くそうだ」と答えた割合は、日本7.5%、アメリカ57.2%、中国42.2%、韓国20.2%と日本は桁違いに低くなっています。

  2013(平成25)年度内閣府が7カ国13歳から29歳の若者を対象とした「わが国と諸外国の若者の意識に関する調査」でも、日本の若者は「自分自身に満足している7.5%」、「どちらかといえば満足している38.3%」で合計45.8%しか満足感を示していないのに対し、アメリカ・ドイツ・フランス・韓国などは「満足している」  「どちらかといえば満足している」は70%から80%に達しています。

  なぜ日本の若者の自己肯定感・自尊心が低いのかという問題では、個性よりも全体性が優先される「同調圧力」の問題があります。教育面では真面目で従順な人づくりにより、目立ったことをするな、みんなと同じ行動をしろ、規律を守れ、指導者に従え、間違えるなといったことが尊重され、慣習面でも他人に迷惑をかけないようにする、自己主張をよしとしない、謙遜するといったことが尊重され、結果自己肯定感、自尊感情の低い人間形成につながったのではないでしょうか。

  こうした反省に立って、今日では「主体的・対話的な深い学び」や「確かな学力」といった考えで一定修正がはかられつつあります。今後、「自ら考え、意見をつくり、表現していく」ことが自己肯定感を高めることにつながるのだと考えます。

   新学習指導要領においても特別活動の位置づけが強化され、「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」という目指す資質・能力の視点が明確に打ち出され、具体的実践が始まっています。

  特別活動の実践を通して、子どもたちの自己実現への支援を学校全体で推進すると、欠席者数が減少するとともに、保健室への通室者が減ったり、けがをする子どもの人数が減ったりするという効果があることが指摘されています。また、特別活動の積極的な導入は、学力向上にもつながることが国の調査でも明らかになっています(平成24年度学習指導要領実施状況調査)。そして何よりも特別活動の魅力は、学校が楽しくなることであり、自尊感情を高め、自己実現が図られることが各地の教育実践で検証されています。こうした視点に立って、特別活動や総合的な学習の時間を活用して自己肯定感を向上させるために、以下の事項に取り組むことを提案します。

 

ア 異年齢活動の推進

  いま子どもの数が少なくなる中で、兄弟同士あるいは地域の子ども会などにおける異なる年齢同士の子どもがふれあえる機会が減少しています。こうした中、市内の小学校でも異年齢活動・縦割り班活動が取り組まれ、異年齢の子どもたちの交流による社会性の育成など、様々な成果をあげています。お互いを本当の兄弟姉妹のように思い、卒業式では別れを悲しむ下級生の号泣に包まれるコロナ禍以前の光景は本当に感動的なものでした。こうした異年齢活動の取組を通して、上級生の自尊心・自主性が高まり、心の成長の大きな糧になっています。

  しかし、こうした子どもたちが中学に入学するとどうでしょうか。いきなり先輩・後輩の縦の社会におかれ、それまでお互いに君づけで呼び合っていたものが、○○先輩という呼び方に変わってしまいます。こうした年齢による上下関係は日本や韓国など少数の国の固有の文化であり、同調圧力の要因ともなっています。

  こうしたことから、中学校内部での異年齢活動の強化、あるいは小学校・中学校合同の異年齢活動の強化なども今後必要になってくるのではないでしょうか。

  また、全国には学習活動にも異年齢活動を取り入れ、成果をあげているところがあります。教え合うことが学力向上に大きく寄与するだけでなく、教科の壁を取り払い、一つのテーマに対して多面的な考察を行うことによって多様性を培うという利点も指摘されています。

  このような異年齢活動をさらに推進させ、子どもたちの自己肯定感を向上させ、多様性を尊重する気運を高めていくべきと考えますが、教育長のご所見をお示しください。 

 

イ 子どもたちの手による校則の見直し

  いま、頭髪や下着の色を規制するなど、プライバシーや人権に関わる不合理な校則が全国的に問題となっており、各学校に校則見直しを求める通達を出す教育委員会が増えています。

  本市ではこうしたプライバシーや人権に関わるような事例はないようですが、服装や頭髪、所持品等に関わる細かい規則はあるようです。

  いま、校則がこれまで以上に問題とされる背景には、やはり「同調圧力」の問題があるのではないでしょうか。個人の価値よりも全体の価値が優先され、全体の調和を図ることを目的とする教育から、やはり自己実現をはかる教育にシフトすることが求められているのだと考えます。

  いま、その規則が本当に必要なものなのかどうか、子どもたちの心身の発達に寄与するものなのかどうか、子どもたち自身の手で学校のあたりまえを見直すことは、子どもたちの自尊心、自律性の確立からみて大きな意義のあることではないでしょうか。

  こうした中、2020(令和2)年11月にNHKで広島県のある小学校のルール見直しの取組が放映されました。この小学校では服装、宿題、校則などすべて子どもたちに考えさせ、決めるというやり方に変えました。持ち物に関する決まりでは、それまでの細かな決まりをなくし、現在では「自分で考え持ってくる」「持ち物に名前を書く」の2つだけにしたそうです。

  この学校の校長は「すべてを指示とか型にはめるのではなく、生活の中に選択肢を増やして、子どもたちが自ら考える。そのことが自分からエンジンを持って動き出す大人になることにつながると考えている」と話しています。

  このように、子どもたちの手による校則の見直しは、子どもたちの自主性・自律性の発達を促し、同調圧力をはねのける個性の確立に寄与するものと考えますが、教育長のご所見をお示しください。

 

ウ 教育漫才授業の実施

  いま、教育漫才が注目され、その教育実践が広がっています。越谷市立東越谷小学校で始まったもので、そもそものきっかけは、不登校に悩む親子に安心感を与えたい、温かい笑いで包んであげたいという校長の思いから始まった取組です。教室の床を踏むことすらできなかった不登校の子どもが、その後楽しく仲間たちと漫才を繰り広げるに至った姿はまさに奇跡ともいうべきものです。

   いじめ・不登校・自殺などの予防にあたっては、相談すること、相談を受けたら信頼できる大人につなぐということが大切です。いじめも、不登校も、自殺も相談することができずに一人で悶々と悩みを抱え、問題を解決できないまま苦悩し、追い込まれることが要因となっています。だからこそ、温かい人間関係の中で、コミュニケーション能力、特に相談する力を育成することが大切で、そのことがいじめ、不登校、自殺の予防につながると校長は述べています。

  漫才のコンビはくじで決めます。このことが新しい友だち関係のつながり、どんな人とも仲良くできるという関係性の強化につながります。台本作りにあたっては、「三段落ち」(当たり前の台詞が2つ続き、3つめの台詞でボケる)という漫才のテクニックを学び、それを応用することによって特別支援学級も含めた全学年・全生徒が漫才できるようになるとのことです。決まり事は二つで、「死ね」などマイナスな言葉は使わない、どつく、たたくなどの暴力的なことはしないとのことです。漫才は最初に学級内で発表し、子どもたちが選んだ代表が全校大会に参加します。

  発表会には保護者や地域の方も含め300人から500人が参加します。アンケートでは100%の人が教育漫才を評価しています。

 教育漫才の効果をまとめると以下のようになります。

@温かい雰囲気が連鎖していきます。そのことで学校全体が安心、安全なやさしい雰囲気につつまれ、いじめや不登校が減少したとのことです。

Aコミュニケーションの活性化が図られます。発表が苦手な子どもや、声が小さい子どもたちが漫才を通してコミュニケーション能力の活性化が図られ、発表しやすい雰囲気のもと授業中に手を挙げる子どもが増え、学力も向上したとのことです。 

  いま、「主体的・対話的で深い学び」という教育課題に理解を示しつつも、実際どうやったらいいのか悩む教師もいると思います。そうした中で、ぜひこのような学校を温かい笑いで包む教育漫才授業の実践に向け、研修などの環境整備を教育委員会としてはかりながら、いじめ、不登校、自殺の予防対策を強化されるよう提案するものです。教育長のご所見をお示しください。