一般質問の要旨   (令和4年3月)

質問者 議席番号 4番  守 岡  等  議員

 

 自主性・多様性を尊重する教育方針の確立について

以前、新型コロナ感染症の拡大により教育活動が制限されている中で、子どもたちの健やかな成長が疎外されている問題を取り上げました。学校の教師や保護者、そして何よりも子どもたちの努力により、一定の改善が図られつつあります。しかし、それでも全国的には子どもたちの自殺は増え続け、不登校の数とともに過去最高を記録しています(2020年)。

コロナ禍で子どもたちの生きづらさが露呈しましたが、子どもたちの危機は今に始まったことではなく、国連は再三にわたって日本の教育制度の問題について勧告を行ってきました。2019年3月には国連子どもの権利委員会「日本政府第4回・5回統合報告書に関する最終所見」が示され、「社会の競争的性格により子ども時代と発達が害されることなく、子どもが子ども時代を享受することを確保するための措置をとること」が勧告されました。過去3回の勧告では「教育制度」に限定していた問題の原因が「社会」まで及んでおり、また、「発達」だけでなく「子ども時代」の問題にも言及しているなど、日本の教育問題の深刻さを浮き彫りにしています。

日本の教育、社会における競争原理、管理主義、成果主義といった問題は、様々な面で弊害を生み出しています。貴重な思春期を受験戦争で奪い、知識偏重の教育は、主体性の乏しい、自尊感情の低い子どもを生みだしました。高校受験があるのは先進資本主義国では日本だけだそうですが、自主性とゆとりのある欧米の教育を経験した子どもたちが日本の学校に転校したら、あらゆる面で管理される日本の教育に嫌気がさし、とてもこんなところにいられないと、すぐに戻ってしまう例もあるそうです。

また、子どもたちだけでなく、競争原理、管理主義、成果主義のもとでは新しい発想で経済を成長させる人材が育たず、日本経済の停滞の原因にもなっていると考えられます。

こうしたことから、国の方でも危機感を強め、今の日本の停滞を打破するための様々な改革を打ち出しています。新学習指導要領の改訂では、生きる力、主体性の重視がうたわれ、人間性や思考力・判断力・表現力の向上や、授業改善では面白いと思える学びへの転換が打ち出されています。

2017年に施行された教育機会確保法では、不登校や不登校傾向の子どもたちが

増える中、フリースクールなどが認知されて、不登校支援は従来のような学校復帰を目的とせず、個々人が進路を主体的に考え、社会的に自立することを目指す方向に転換しました。

また、全国の公立学校でも改革が進んでいます。大阪市立大空小学校、世田谷区立桜丘(さくらがおか)中学校、千代田区立麹町中学校などで子どもたちの健全な成長を促す大担な取組が行われています。共通しているのは、管理ではなく、自由・自主性の尊重、そして上からの圧力ではなく、子どもたちの内面の無限の可能性を導き出す教育が行なわれていることです。

こうした視点に立って、自主性・多様性を尊重する教育方針の確立について、以下のように提案するものです。

 

(1) 非認知的能力の向上

これまでの教育では、ペーパーテストなどで測る学力を中心に能力が評価され、知識偏重社会・学歴社会を生み出しました。しかし、最近の研究では自尊心・忍耐力など「自己に関わる心の力」や共感性など「社会性に関わる心の力」といった非認知的能力が注目され、非認知的能力を高める教育を受けた子どもたちは、成人後に社会的成功を収めた率が非常に高かったことも研究成果として示されています(ヘックマン)。

 非認知的能力を高めるためには、

・子どもが言うことを否定しない

・子どもの話を聞いてあげる

・子どもに共感する

・アタッチメントなど子どもとのふれあいを積極的に行う

・能力ではなく、努力をほめる

・行動を強制しない

ということがあげられています。世田谷区立桜丘中学では、こうした視点を重視して、豊かな教育実践が行われています。そうした取組を参考にしながら、非認知的能力の向上に向けて以下の事項について提案します。

ア 自主性育成に向け、校則作りを子どもに任せる

桜丘中学では、自由と自主性が何よりも尊重されています。この中学には校則、定期テスト、制服、チャイム、登校時間がありません。こうした取組の背景には子どもたちの活発な議論がありました。このような取組を通して「自分でものを考える力」が養われ、規範にしばられた生活ではなく、自分や他人が幸せに生きるためには多様性を認めることが必要であることを知り、いじめや不登校が減りました。

定期テストを廃止したということで学力の低下が心配されますが、定期テストを

廃止した背景にはテストに向けて5教科もしくは9教科の試験勉強を集中して取り組むことが子どもたちの大きなストレスになっていることを考慮し、むしろ各単

元ごとの小テストを繰り返し実施した方が効果があがるのではないかという問題意識で実施されました。その結果日々の学習習慣が身につき、学力も向上したとい

うことです。

桜丘中学では服装も自由です。制服があった頃から定期的にカジュアルデーを設

けるなど、自由化に向けた気運はあったようですが、制服の必要性を議論する中で

子どもたちも教師も制服の合理的理由を見出せない中、制服の自由化を決めました。

さらに制服自由化の背景にはもう一つの側面、発達障がいの子どもたちやトラン

スジェンダー(心と体の性の不一致)の子どもたちの生きづらさを考慮したという側面も持っています。子どもたちの中には、晴れた日も長靴でしか登校できない子、授業中も帽子を手放せない子、毎日特定のトレーナーしか着れない子など、様々なこだわりを持つ子がいます。こうした子どもたちが制服の自由化を始めた途端、これまでのこだわりが解けて、普通の服装ができるようになったとのことです。トランスジェンダーの子もしかりです。おそらく制服という画一的なしばり・同調圧力が、子どもたちに見えない不安を与えていたのではないかと思われます。

このように自分たちが生活する環境において、自分や仲間たちが生きやすい条件をみんなで討論しながら進めるという自主性・多様性の育成はまさに教育の原点ではないでしょうか。こうした取組を通していじめや不登校を減らしたという桜丘中学の教訓に学び、本市でも、非認知的能力の向上、自主性育成に向け校則作りを子どもに任せる取組を行うよう提案します。教育長のご所見をお示しください。

イ 教員とのコミュニケーションを向上させる「わくわくタイム」の実施

 桜丘中学では@子どもたちがやりたいと思ったことを実現して徹底的にやる、A

教師は生徒の好きなことを見つける手伝いをする、B子どもたちの居場所をたくさ

ん作ってあげる、という3つの視点を重視して教育実践が行われています。

美術の授業でインスタグラム用に映える写真撮影をしたり、外部講師のボランティアでボーカルレッスン、ギターレッスン、英会話学習をするなど、放課後に子どもたちの好きな活動を支援する活動にも取り組んでいます。「すべての子どもたちが3年間を楽しく過ごす」「一人でも楽しくない子がいたら助けてあげる」という究極のインクルーシブ教育が実践されています。そのためには目の前の子どもたちを徹底的に観察すること、そして何でも話し合える信頼関係を築く必要があります。

この点で、桜丘中学には、好きな先生と話せる「ゆうゆうタイム」というものが 

あります。通常の50分授業を45分に短縮し、放課後に実施されます。子どもたちが話をしたい教員やカウンセラーと二人だけで話ができるというもので、年2回取り組まれます。生徒と教員の相互理解、相談できる環境づくり、いじめ対策などで効果をあげているということです。指名されない教員の反省材料にもなっています。

 こうした子どもたちと教員とのコミュニケーションを向上させる「わくわくタイ

ム」を本市でも実施するよう提案します。教育長のご所見をお示しください。

ウ アクティブ・リスニング(積極的傾聴)の技術向上

 私がアクティブ・リスニングの大切さを知った二つの話があります。一つはある

神父の話です。この神父が話をしているときには、いつも最前列、中央の席で熱心

に聴いている高齢の女性がいたそうです。神父はいつもその女性の姿に励まされる

ように講演をしていました。ある時、講演会の主催者に「あの女性のおかげで私は

話し続けることができました。あの方はどういう人なのですか」と質問したところ、

「あの女性は全く耳が聞こえないんです。じっと顔を見ているだけなんですよ」と

いう答えが返ってきて、神父は大変驚いたといいます。その高齢の女性が手話を通

して言うには「私は耳は聞こえないけれども、じっと相手の顔を見ていれば、その

人が言っていることが真実かどうかがよく分かります。だから、神父さんの話を信

じる気持ちになったんです」と。これを聞いた神父は「ああ、この女性の心の美し

さによって自分の心もまた美しくされた」と心打たれたというのです。

  二つ目は講演の名手と呼ばれる男性の話です。ある人が「どうしてそんなに上手に話せるのですか」と質問しました。彼はもともと話し下手で、人前でスピーチをすることは苦手でした。しかし、後ろの方でいつもこちらを見ながら熱心に聴いてくれている人がいることに気づいて、その人だけを意識して話をするうちに、いつしか話力が身についてきたのだと言います。そして彼もまた熱心に話に耳を傾けてくれていたその人が、耳が不自由であることを後で知るのです。

この二つの話が示すものは、人の話を熱心に聴くことは、その人の中の「本当に

美しいもの」を引き出す不思議な力があるということです。

   相手の美しいものを引き出すために傾聴することは、深い信頼感が前提条件となります。アクティブ・リスニングとはただ聞き流すのではなく、はたまた相手を諭すのでもなく、深い信頼関係の中で、相談者が自分は自分でいいのだという自尊感情を高める作業とも言えます。

 いま、学校でも、家庭でもじっくりと話を聴いてもらう機会は少ないのではないでしょうか。友達にですら、自分の負の面を知らせることに抵抗を持つ子が増えていると聞きます。安心できる場所で、安心できる相談が行えるようアクティブ・リスニングの環境を整える必要があります。

 具体的には、すでに企業においてリーダー育成、コミュニケーションの活性化を目的にした取組が行われています。自己一致、無条件の肯定的配慮、共感的理解という3つの心構えのもと、相手の言葉の繰り返し、YES・NOで答えられない質問といった言語によるコミュニケーションと、聞く姿勢、目線、表情、声のトーンといった非言語的コミュニケーションによって話し手との信頼関係を築き、話し手に気持ちよく話してもらうことを通して、話し手自らが問題解決の糸口を探るというものです。こうしたカウンセリング技法を学ぶメソッドも開発されているようです。

 すでに各学校でカウンセラーや教師が傾聴をもとにしたカウンセリングが図られていると思いますが、さらに不登校やいじめに悩む子どもたちの内面を支援するアクティブ・リスニングの技術向上に向け取組を強化することを提案します。教育長のご所見をお示しください。

 

(2) 不登校支援のあり方

ア 学校における不登校の子どもたち等の居場所作り

いま本市でも不登校、不登校傾向の子どもたちが増えています。様々なストレスが子どもたちに降り注ぐ中、最も必要なことは休養することです。ある意味で、不登校の子どもたちは一歩危機を脱して、次のステップに移る準備期間に入ったと言えるのかもしれません。ある不登校の子どもは「僕たちは不登校という形で、自分のつらさを表現できている。同じようなつらさを抱えながら、それを表現できずに学校に我慢して通っている子どもたちがいっぱいいる。その子どもたちのことを気にかけてください」と言っています。不登校の子どもたちが言われてうれしい二つの言葉があるそうです。一つは「好きにしていいよ」二つ目が「ありがとう」という言葉です。その言葉を聞いてある子は「家族の一員なんだと思えた。存在してもいいんだと思えた」と語っています。

不登校になる原因は千差万別ですが、不登校でもいいという多様性を確認することが最も重要ではないかと考えます。そうした多様性を尊重する場、不登校や不登校傾向の子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりが必要です。桜丘中学では多様性を尊重するインクルーシブ教育が行われていますが、特に不登校・不登校傾向にある子どもたちが自由に過ごせるたまり場が特徴的で、廊下で自由に勉強できたり、校長室が生徒のたまり場になっているということです。教室には入れないが、こうしたたまり場には来れるという生徒のオアシスになっています。こうした多様性の尊重も、いじめや不登校を減らす要因になっているということです。

 本市においても教室には入れないが学校には来ているという子どもたちがいると聞いています。校長室、保健室、空き教室、空きスペース等を利用して、子どもたちが安心して過ごせる居場所をつくることを提案します。

教育長のご所見をお示しください。

イ 公設民営の教育支援学級・フリースクールの設置

いま、学校以外の教育の場が認められ、フリースクールに通う子どもたちが増え

ています。不登校の子への支援は、従来のような学校復帰を目的とせず、社会的に自立することを目指す方向に転換しています。何よりも子どもたちに必要な休養の場が与えられ、カリキュラムを自分たちで考えながら楽しい活動に取り組んでます。

 不登校というとどうしても負のイメージがつきまといますが、実際のフリースクールを見学したり、子どもたちの話を聞くと、自由と自主性の必要性に気づきつつある子どもたちの次のステップへの準備空間といえるのではないかと考えます。

 様々な課外活動が盛んに取り組まれ、それぞれの個性や価値観に対応した多彩な

取組が行われています。将来の進路も「N高等学校」というインターネットを利用した通信制の高校も設置され、脱偏差値教育のもと社会の多様性を経験した人が東京大学や京都大学に進学するという事例もあるようです。

 こうした中、東京都世田谷区では公設民営の不登校支援施設が設置されました。教育支援施設を民間のノウハウを活用しながら運営されているということです。公設によって利用料は無料とされ、保護者の金銭負担に罪悪感を感じる子どもたちもいることから、公設のメリットは大きいものがあると考えます。

 本市からも山形のフリースクールに通っている子どもがいますが、身近に公設民営のフリースクールがあれば、さらにニーズが広がり子どもたちの可能性も広がるのではないでしょうか。既存のすこやか教室の活用や、休校した西郷第一小学校などの校舎の利用も考えられます。不登校支援に向け、公設民営の教育支援学級・フリースクールの設置を提案します。教育長のご所見をお示しください。