一般質問の要旨  (平成29年3月)

質問者 議席番号 1番  守 岡  等  議員

 


1 結婚・出産・子育てしやすい環境の整備について

今、わが国では人類の歴史上経験したことのない急激な人口減少が進んでいます。上山市も例外でなく、深刻な人口減少に直面しています。1960年の40,383人をピークに、特にバブル経済期を過ぎたあたりから年間数百人の人口が減少し、ここ2〜3年内には3万人を割ろうとしています。

  人口減少は、各分野に様々な影響を及ぼします。著しい労働力不足によって市内産業は停滞し、様々な分野における後継者不足、耕作放棄地・空き家などの増加、子ども会活動など地域コミュニティーの停滞を招きます。また、人口減少社会は社会保障制度にも大きな影響を与え、財源を確保できないどころか、人手不足で医療や介護の現場が維持できなくなる事態も予想されます。

   この間、国においても2003年の少子化社会対策基本法や次世代育成支援対策推進法の制定など、様々な人口減少対策に向けた政策を講じてきました。こうした政策は保育所待機児童の解消など一定の成果をあげてきましたが、まだまだ人口減少対策の根幹をなすものとはなっていません。むしろ、経済的問題、不安定雇用が若者の結婚ばなれを進行させ、人口減少の要因とされているにもかかわらず、政府は1990年代後半から正規雇用を減らしながらパート、派遣、契約、請負などの非正規雇用を増やすという二律背反的な政策を行ってきました。

   今、安倍内閣は「ニッポン一億総活躍プラン」と称して、人口減少対策につながる政策を打ち出しています。男性の育児参加や非正規雇用の均衡待遇を促す働き方改革、幼児教育費無償化、新たな奨学金制度の導入などによる希望出生率1.8の実現など、かかげられたスローガンは大変素晴らしいものです。

  私はこうした政策が実のあるものとなるように、地方から積極的に問題提起・政策実施していくべきだと考えます。

  すでに全国市長会からは、2015年5月に「人口減少に立ち向かう都市自治体と国の支援のあり方」が報告され、若者の住宅、安定した就労、企業誘致など14のライフステージに応じた自治体の役割、地方単独事業による支援のあり方が提案されています。どれも時宜にかなった有効なものだと考えられます。こうした様々な団体・研究機関から出されている人口減少対策の具体的施策を吟味し、上山市に求められている施策を取り上げていきたいと思います。

  なお、結婚・出産というのは個人の価値観によるところが大きく、戦前・戦中のように国家がスローガン化して促進するものではないことは明らかでありますし、成熟した現代社会においては多様な価値観・幸福観があり、結婚・出産を選ばない生き方も尊重されるべきです。

  しかし、様々な価値観がある中でも多くの国民が結婚・出産を希望しています。内閣府が2014年に公表した「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書でも、未婚者の割が結婚したいと答え、既婚者は2人から3人は子どもがほしいと答えています。そうした意向を持ちながら、なぜ結婚や出産が減っているのか、結婚や出産を妨げている理由を一つひとつ解明し、手立てを講じることが必要であり、以下その対応策について問題提起するものです。

 

(1) 経済的な不安の解消

  現在結婚していない理由として、特に男性の多くが生活資金、結婚資金、雇用の不安定さを指摘しています。出産・子育ての問題では特に男性の非正規雇用の方が「今は子どもがいないが、将来は子どもがほしいと思う」及び「子どもはほしくない」の割合が全体と比べて高くなっており、出産・子育てと雇用の問題が大きく関わっていることを示しています。内閣府の調査では、15〜24歳(在学中含む)の半数近くが非正規雇用、不安定雇用の状況に置かれています。また、平成22年の国勢調査によると、上山市民である雇用者のうち32%、約3分の1の勤労者が非正規雇用となっています。こうした雇用による経済的不安が、結婚できない、子どもを持てないことにつながっているのだと思います。

  人口減少対策の基本は、若者が結婚し、子どもをもうけることですが、その前提となるのが「すべての若者が安定した職に就き、将来にわたって十分な収入が得られる」ということではないでしょうか。本来であれば国が率先してそうした政策を講じるべきですが、国は今、派遣労働の全面解禁に続き、低賃金で解雇しやすい「限定正社員制度」などの「多様な働き方」、「残業代ゼロ」の「脱時間給制度」、「金銭解雇制度」などの将来不安をさらに広げる政策をすすめようとしています。

  このような状況の下で、本市で何ができるかを考え以下の事項について提案します。

 

  ア 市の非正規職員の待遇改善

  まず、上山市非正規職員の待遇改善を図ることです。当市の職員数は2017年11日現在で、正職員327人、非常勤職員73人、日々雇用職員78人となっています。これらの職員はみなそれぞれの部署でそれなりの仕事を任されており、行政執行におけるかかせないスタッフとなっています。

  この方たちの雇用不安を取り除くために、まず賃金格差の是正を図る必要があります。少なくとも同じ労働に関しては時給換算で正規職員と同様の賃金体系を整備し、賞与についても是正する必要があります。本来であれば自治体労働者の平均賃金と比較した賃金体系を整備すべき所ですが、政府のいう同一労働同一賃金制は同じ企業内での整備が検討されているようなので、まず当市役所内での同一労働同一賃金制の整備を図るべきと考えます。

  今、仙台市の民間企業など、同一労働同一賃金制を採用する企業が増えています。ある北欧系企業では正社員もパート労働者も格差のない労働時間に応じた給与を払う制度を導入し、雇用期間も原則無期雇用にしています。このことにより労働者の安心感が増しただけでなく、コワーカー(ともに働く人)という考えが浸透し、マネジメントの改善など様々な効果があがったということです。

上山市役所が自治体労働における同一労働同一賃金制を実施することによって、世間の評価が高まり、ますます優秀な職員が集まるだけでなく、職員の結束力が高まり、共同体意識が高まることにより、市民の福祉向上につながるより効果的・効率的な業務改善が図られるのではないかと考えます。

  また、賃金格差の是正と同時に、勤務条件についても是正していく必要があります。現在の勤務条件は、非常勤職員については年次有給休暇、忌引、結婚休暇、病気休暇等でありますが、日々雇用職員については年次有給休暇のみです。こうした格差のある勤務条件についても是正を図る必要があるのではないでしょうか。上山市非正規職員の待遇改善について、市長のご所見をお示しください。

 

  イ 公的な無料職業紹介事業の機能強化

  次に、市内で正社員を中心とした雇用の安定を図るために、公的な無料職業紹介事業の機能強化を提案します。大阪府豊中市は、くらし支援課が中心となって、自治体としての就労支援を推進していることで知られています。豊中市は職業安定法に基づく無料職業紹介事業を実施し、無料職業紹介所を開設しています。

   豊中市の公的就労支援は、ハローワークでは把握しきれない求職者個々の状況や意向を把握し、支援員が市内の企業を訪問し、求職者と企業のつなぎ役の役目を果たしていることに特色があります。不安定雇用からの脱却をめざす求職者に対して有用な情報を提供できるとともに、人手不足に悩む企業からすれば、公的な支援を受けた求職者は信頼が厚く、就職後の定着支援もあり、非常に喜ばれており、成果をあげているということです。

  本市においても、現在無料職業紹介所を市役所内に設置し、若年層への職業紹介を行っています。ただ残念ながら非正規雇用の求人の方が多いというのが実情のようです。この無料職業紹介所の機能を強化し、豊中市のように専任職員を配置し、求職者の状況把握につとめ、積極的に正規職員を求める企業を発掘し、求職者と企業のマッチングを進める必要があるのではないでしょうか。本市には現在雇用確保対策事業費補助金制度があり、市内在住者を正社員として雇用した場合には25万円支給される事業ですが、こうした事業ともリンクさせながら正社員雇用を進めていく必要があると考えます。

  こうした取り組みは、求職者、とりわけ若者の雇用の安定化につながるだけでなく、行政と中小企業との結びつきも深まります。そして、将来的には交流人口拡大、定住促進にもつながるものだと考えます。公的な無料職業紹介事業の機能強化について、市長のご所見をお示しください。

 

  ウ 奨学金の返還負担の軽減

  経済的な環境が悪化する中、奨学金を利用する学生が増え、貸与額も以前とは比べものにならないほど高額になっています。中央労福協(労働者福祉中央協議会)が

2015年に行った調査では、34歳以下の若者の2人に1人が奨学金制度を利用し、借入総額は平均312万円、月の返還額の平均は1万7千円、負担感については4割の方が苦しいと答え、生活設計への影響という点では「結婚」と答えた方が最も高くなっています。返済を延滞した場合には過酷な延滞金が課せられ、奨学金ではなく奨学ローンといった方がいいのが実情です。

  厳しい奨学金返還の状況で、本市においては県と連携しながら若者定着奨学金返還支援事業が取り組まれています。貸与月数に2万6千円を乗じた額を上限に、返還が軽減される制度として本市の若者定着にも役立っていると思います。しかし、労福協の調査でも明らかなように、借入平均が300万円を超え、400万、500万円借りる学生も多いようです。このように何百万円もの奨学金の返還を課せられている状況では、希望を持て、結婚しろといわれてもそれは無理というものではないでしょうか。

  このような状況のもとで、村山市では「村山市夢応援奨学金」という給付型奨学金制度を創設しました。6千万円の基金を造成し、高校生20〜30人を対象に10万円(1回のみ)、大学生1学年5人程度を対象に年間60万円を支給するということです。

  こうした給付型奨学金制度は、とりわけ低所得者の教育権を保障するとともに、高等教育を終えたものが就職し、結婚し、子どもを産み・育てるという本来の人間らしい生活を送るための大きな支えとなる制度でもあります。

  また、国の方でも所得に応じて奨学金の返済額を軽減する制度を検討中だと聞いております。

   本市において、大学を卒業した後、奨学金返済の心配なく専門知識をいかした職に就き、そして結婚し子どもを持てるようにするために、給付型奨学金制度の創設あるいは就職後の所得に応じて返済額を軽減する制度を設けることを提案します。こうした制度によって、若者の夢と希望を後押しする奨学金制度本来の目的を取り戻すだけでなく、優秀な未来の担い手づくりにつながります。教育長のご所見をお示しください。

 

(2) 男性の育児参加をより高めるイクメンプロジェクトの立ち上げ

  安心して結婚・出産・子育てができない要因に、両親が働きながら子育てを行う両立支援が不十分だということがあげられます。わが国では、出産後も就業を継続した女性は約4割にとどまっており、退職した女性の4分の1が「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさでやめた」としています(内閣府:2016年版少子化社会対策白書)。働きながら出産・子育てを可能にする両立支援制度の整備が待たれています。

   この面では国の制度化が進み、育児休業は子どもが1歳(保育所に子どもを預けられないなど一定の理由がある場合は1歳6ヶ月)に達するまでの間取得することができるようになり、その間は雇用保険から50%〜67%の育児休業給付金が支給されるようにもなりました。また、事業主に3歳未満の子どもを養育する労働者に対して、短時間勤務、フレックスタイム、始業・終業時間の繰り上げ・繰り下げ等のいずれかの措置を講じることが義務づけられ、2010年6月からは3歳までの子を養育する労働者について、短時間勤務制度(1日6時間)を設けなければならなくなりました。

  このように、育児休業制度については一定の前進が図られています。しかし、一定前進した両立支援の取り組みにおいても、私は3つの問題が残されていると考えています。第1は、大企業中心の取り組みに終わっており、中小・零細企業の取り組みが弱いということです。第2は、正規雇用職員が対象であるため、非正規雇用者への対応が遅れていることです。第3は、男性の育児参加がまだまだ弱いということです。

  こうした課題に対し、とりわけ男性の育児参加を進めるために、以下の事項を提案します。

 

  ア イクメン支援の取組

(ア) イクメン教育・研修の実施

2014年に厚生労働省が、「夫が休日の家事・育児に参加した時間と第2子以降が産まれた関係」を調査したところ、「夫の家事・育児時間なし」では第2子以降の出生状況は9.8%であるのに対し、参加時間が長くなればなるほど第2子以降の出生が増えていき、6時間以上になると80%を超えるという調査結果が出されました。子育てに父親が積極的に関わるべきだという意識が社会に広がれば、確実に少子化解消への道筋がつくはずです。本市においても短時間勤務は可能であり、2010年度からは父親・母親がともに市役所で働いていても同時取得できるようになったと伺っております。しかし、せっかくの制度がなかなか男性職員には活用されていないようです。

  また、山形県労働条件等実態調査によると、2014年の県内男性育児休業取得率は2.1%となっており、全国平均2.3%を下まわっています。本市において、これまで育児休業を取得した男性職員は2011年度に2人いただけです。しかし山形県職員の2014年における男性職員育児休業取得率は9.7%であり、2020年度までに20%になることを目標に取り組みを進めるとのことです。

  県職員の男性育児休業取得率が高い背景には、各部局ごとの綿密な調査とともに、NPO法人ファザーリング・ジャパンをはじめとした、講演会やディスカッションを通したいわゆる「イクメン(子育てする男性)」についての理解が培われていること、さらにはインターネット等を通じて積極的な情報発信が行われているところにあるのではないかと思います。

  育児休業をとった県の職員は、「今後は、自分が子育てする中で職場の皆さんからご協力いただいた経験を忘れずに、効率的な仕事の進め方を常に考えながら精進し、部下も自分も生き生きと働ける職場をつくる立派なイクボスになることが目標です」と感想を述べています。このように子育てしやすい労働環境は、様々な派生効果をもたらすものだと考えます。

  本市においても、2016年12月に策定された第二次上山市男女共同参画計画で「男性が育児・介護休業制度を活用しやすい職場環境づくりに向けての啓発を行う」としています。また、上山市特定事業主行動計画において、2015年度は0%の男性の育児休業取得率を、2019年度までに13.0%以上とする目標を確認しています。

  こうした取り組みの具体化を図り、本市において男性の育児休業取得率を高めるために、まず市の職員がその必要性・重要性をしっかりと学んでいくことが必要です。「育児休業が取得できるのに休まない人」への教育研修、「取得したいのに休めない人」には職場環境の見直しが必要です。前述したファザーリング・ジャパンの代表などを招いてイクメンに対する理解を培い、上司をはじめ、職場全体で男性の育児参加・育児休業取得を勧める気運を高めることが必要です。男性の育児参加・育児休業取得率を高めるためのイクメン教育・研修について、市長のご所見をお示しください。

 

  (イ) イクメン情報の発信

次に、市内の企業・学校などでもイクメンに関する教育・研修の場を設け、男性の育児参加・育児休業取得の意義と実績について理解を培っていく必要があります。こうした研修を通してイクメンを増やすとともに、それを応援・サポートする家庭の妻や祖父母、企業、職場の上司、同僚などのサポーターを増やすことも重要です。そして先輩イクメンの奮闘や育児休業にまつわる体験談、サポーターからの応援メッセージ、イクメン企業の取組などの情報発信の他、イベントの開催などを行うイクメンプロジェクトを立ち上げることを提案します。イクメンを応援する雰囲気をつくりあげていくことは、「ずっといたい」まちづくりを進める上でも大切なことではないでしょうか。イクメンプロジェクトの立ち上げとイクメン情報の発信について、市長のご所見をお示しください。