集団的自衛権「海外で戦争する国」づくりを許さない
 
1.「海外で戦争をする国づくり」を推し進める閣議決定
・安倍政権は、7月1日、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」を強行。
・「閣議決定」は二つの点で「海外で戦争する国」づくりを推し進めるもの。
 
@アメリカが行う戦争に、自衛隊が「戦闘地域」までいって軍事支援を行うということ。
・これまでのアフガニスタン報復戦争、イラク侵略戦争での自衛隊を派兵では、派兵法の第2条で、「武力行使をしてはならない」「戦闘地域に行ってはならない」という二つの歯止めが明記され、自衛隊の実際の活動は、インド洋での給油活動、イラクでの給水活動や空輸活動に限定された。
・「閣議決定」は、自衛隊が活動する地域を「非戦闘地域」に限るという従来の枠組みを廃止し、これまで「戦闘地域」とされてきた場所であっても支援活動ができるとした。
・「戦闘地域」での活動は、それが補給、輸送、医療などの「後方支援」であっても、相手からの攻撃を受けることになる。
・国会での質疑でも首相は「武器の使用はする」と認めた。結局、応戦し、武力行使となる。
(アフガン戦争)
・アフガン戦争にさいして、集団的自衛権の発動として参戦したNATOの国ぐにの活動内容は、「後方支援」だったが、それでも泥沼の戦争に巻き込まれた。米国以外のNATO軍の犠牲者は、21カ国、1035人にのぼっている。
 
・集団的自衛権の行使容認は、日本の国を守ることでも、国民の命を守ることでもない。アメリカが起こす戦争で、自衛隊が「戦闘地域」まで行って軍事活動ができるようにする、アメリカの戦争のために日本の若者の血を流す、ということ。
 
A「自衛の措置」の名で海外での戦争にのりだす
・「閣議決定」は、日本に対する武力攻撃がなくても、「日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」には、武力の行使=集団的自衛権の行使ができるとしている。
・安倍首相が例として持ち出しているのは、「紛争時に邦人輸送をする米艦船の防護」。本来、邦人の避難というのは、あくまでも日本政府の責任で行われるべきもの。
・1997年の日米ガイドラインの協議の場でも、日本側は「米軍による邦人救出」を要請したが、米側から断られ、「日米両国政府は、自国の国民の退避は各々の責任で行う」ことを確認。
・アメリカの救出活動には国籍による優先順位がある。第1位はアメリカ国籍保持者、第2位はアメリカ永住権保持者、第3位はイギリス国民、第4位はカナダ国民、第5位はその他国民、日本人は最後のその他に入る。
 
2.安倍首相の三つのごまかし
@首相は、「現行の憲法解釈の基本的考え方は、何も変わるところがない」としている。
・しかし、従来の政府見解は、「海外での武力行使は許されない」ことを土台として構築され、集団的自衛権の行使は憲法上許されないというもの。従来の憲法解釈の土台を百八十度覆しておきながら、「何も変わるところがない」とは、詭弁以外の何物でもない。
・しかも、首相は、閣議決定後のオーストラリアの連邦議会での演説で「日本は安全保障の法的基盤を一新しようとしている」と語った。国内では「何も変わるところがない」といいながら、外国では矛盾した説明を行っている。
 
A首相が、集団的自衛権の行使は、「明確な歯止めがある」「限定的なもの」としている。
・「明白な危険」があるかどうかを判断するのは時の政権であり、特定秘密とされ国会の審議にも付されない。
・首相は、「石油の供給不足」や「日米関係に重大な影響」がある場合でも武力の行使がありうると答弁しており、結局、「歯止め」はない。
・国会にも国民にも真実が明らかにされないまま、海外の武力行使が底なしに広がる。
 
B首相が、「日本が戦争に巻き込まれることはあり得ない」としていること。
・戦後、アメリカが世界各地でおこなった武力行使に対し、日本がそれに批判的立場をとったケースは一度もない。
・「集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」という歯止めなくなった後、米国からの要求があった時にどうして断れるか。日本が、ベトナム戦争や、イラク戦争のような無法な侵略戦争に加担することになるのは明らか。
・1941年12月8日に発せられた太平洋戦争開戦の「詔書」には、次の言葉があった。
 「帝国ノ存立亦(また)正ニ危殆(きたい)ニ瀕セリ…帝国ハ今ヤ自存自衛ノ為蹶然(けつぜん)起ツテ一切ノ障礙(しょうがい)ヲ破碎(はさい)スルノ外ナキナリ」
・無制限の海外での戦争を、「国の存立」「自衛の措置」の名で推し進めることは、かつて日本軍国主義が「帝国の存立」「自存自衛」の名で侵略戦争を進めた誤りを、ふたたび繰り返すものである。
 
3.戦後日本の国のあり方を根底から覆す−失われるものは何か
・今年は、自衛隊創設からちょうど60年。この60年間、自衛隊は、一人の外国人も殺さず、一人の戦死者も出していない。これは憲法9条の偉大な力である。憲法9条は自衛隊員の命をも守ってきたのである。
・安倍政権は、こうした戦後日本の国のあり方を根底から覆し、「殺し、殺される国」につくりかえようとしている。そのことによって失われるものは何か。
@若者の命と人生が失われる。戦争がもたらす犠牲とはどのようなものか。
・自衛隊員の戦死者は一人もいないが、戦争の犠牲者がいないわけではない。イラク派兵でも、緊張と恐怖から、派遣された隊員の1割から3割が精神に不調をきたした。そしてアフガン派兵とあわせて帰国後40人の隊員が自ら命を絶っている。
・これが「戦闘地域」への派兵に投げ込まれたらどうなるか。米国ではイラク戦争とアフガニスタン戦争の帰還兵が200万人のうち60万人が戦地で経験した戦闘や恐怖から心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを患っている。そして米国政府の統計によると、1日平均22人が自殺をしている。戦場での戦死に加えて、年間8千人もの自殺。これを日本の若者に押しつけるのか。戦争でまっさきに犠牲とされるのは、未来ある若者である。
 
A日本が憲法9条とともに築いてきた国際的信頼が失われる。
・「日本国際ボランティアセンター」(JVC)は、6月10日声明を発表。これまでの非軍事に徹した国際平和協力を行ってきたことは日本の独自性であり、これにより日本が国際的な信頼を獲得してきたことは、まぎれもない事実だと主張。そして第二次世界大戦以降およそ70年間をかけて築き上げてきた資産や信頼を決して失ってはならないと訴えている。
・世界の紛争地で、献身的にボランティア活動にとりくんできた多くのNGOから、日本が「海外で戦争する国」になったら、海外で他国民に銃を向けるようになったら、世界から日本に寄せられてきた信頼が憎悪に変わり、日本人がテロの対象とされ、「失うもの」はあまりに大きいという警告が発せられている。
 
B日本社会から人権と民主主義が失われる。
・「海外で戦争する国」づくりは、秘密保護法や愛国心を植え付ける改正教育基本法など、戦争に国民を動員する体制づくりと一体のものである。
・徴兵制の問題もある。「自衛隊に犠牲者が出れば、自衛隊員が激減し、徴兵制になりかねない」という多くの識者の懸念は、決して杞憂ではない。
・政府は、これまで徴兵制について、憲法18条が禁止する「奴隷的苦役」にあたり許されないとしてきたが、自民党の石破茂幹事長は、国会の発言で、「徴兵制が奴隷的な苦役だとする議論にはどうしても賛成しかねる」と徴兵制を容認する発言を行っている。
 
4.たたかいの帰すうを決めるのは世論と運動―空前の国民的反撃を
 安倍政権のたくらみは大局で見れば、決して思惑通りに進んでいない。
・彼らはまず、憲法9条の明文改憲を狙ったが、改憲反対が国民世論の多数を占めている。
・つぎに憲法96条の改憲手続きを緩和しようとしたが、今度は憲法9条改定の是非を超えて「邪道だ」という声が起こり頓挫。
・そこで解釈改憲で集団的自衛権行使容認を進めようとしているが、保守政治を中枢で支えてきた人々を含めて「こんな裏口入学は許せない」「立憲主義の否定だ」との批判が広がっている。
(多くの国民が反対を表明)
・平和を願う国民のエネルギーは広く深いものがある。
<若者>
 官邸前行動などで、若い世代が「最大の被害者となるのは私たちだ」と、この問題を文字通り自らの問題としてとらえ、たたかいの主人公となっている。
<主婦>
 子育て世代は、「子どもたちが戦争に巻き込まれるのではないかと不安だ。私たちの責任で平和憲法を子どもたちの世代に引き渡したい」と声をあげている。
<高齢者>
 高齢者世代は、「あの悲惨な戦争を、孫の世代に体験させるわけには絶対にいかない」と立ち上がっている。
<弁護士>
・日本弁護士連合会と全国各地の52の弁護士会のすべてで反対声明が採択された。弁護士が立憲主義を守り、恒久平和主義を求めて、たたかいの先頭に立っている。
<宗教者>
・日本の伝統仏教界における唯一の連合組織で、合計105団体が加盟する全日本仏教会は、「仏陀の『和の精神』を仰ぐ者として、このたびの集団的自衛権の行使を容認する閣議決定には、人間の知恵の『闇』を垣間見るがごとき、深い憂慮と危惧の念を禁じ得ません」と声明を発表。
<自民党歴代幹事長>
・自民党の歴代元幹事長、改憲派といわれてきた憲法学者が、反対の論陣を張っている。
 
・「閣議決定」が強行されたからといって、自衛隊を動かせるわけではない。たたかいはこれから。
・憲法違反の「閣議決定」の撤回を強く求めるとともに、「閣議決定」を具体化し、「海外で戦争する国」をめざすいっさいの立法作業をただちに中止することを強く要求しよう。
 
5.北東アジアの平和と安定をどうはかるか―「北東アジア平和協力構想」
・安倍首相は、ことあるごとに「我が国を取り巻く安全保障環境が悪化している」と言い募り、集団的自衛権行使容認の口実にしている。
・北東アジアには緊張と紛争の火種が存在することは事実。しかし、首相のように専ら「抑止力」の強化、軍事力増強で構えたら「軍事対軍事」の悪循環に陥ってしまう。いま日本にとって何よりも大切なことは、どんな問題も、道理に立った外交交渉による解決、平和的解決に徹する、憲法9条の精神に立った外交戦略を確立することだ。
 
<日本共産党の「北東アジア平和協力構想」>
@域内の平和のルールを定めた北東アジア規模の「友好協力条約」を締結しよう。
A北朝鮮問題を「6カ国協議」で解決し、この枠組みを地域の平和と安定の枠組みに発展させよう。
B領土問題の外交的解決をめざし、紛争をエスカレートさせない行動規範を結ぼう。
C日本が過去に行った侵略戦争と植民地支配の反省は、不可欠の土台となる。
 
・ASEANでは、「東南アジア友好協力条約」(TAC)という、「紛争の対話による解決」をめざす平和の地域共同の枠組みがしっかりつくられている。
・東南アジアで現につくられている平和の枠組みを、北東アジアにも築こうではないかというのが、日本共産党の提案である。
 
 日本は今、戦争か平和かをめぐって、戦後最大の歴史的岐路を迎えている。このたたかいの最終的な帰趨(きすう)を決めるのは、国民の世論と運動である。「海外で戦争する国」づくりを許すな、解釈で憲法を壊すな―この一点で、空前の国民的反撃のたたかいをおこし、安倍政権の軍国主義復活の野望を必ず打ち砕くために、ともに力をあわせよう

(志位委員長の講演より)