集団的自衛権と貧困問題について
 
1.まず、安倍内閣はどのように戦争する国作りを準備しているかと言うことです。昨年の秋の臨時国会で国家安全保障会議設立法が成立しました。これは自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が、国家のあらゆる情報を集約・統制し、外交・軍事政策をトップダウンで強力に推しすすめる現代版の大本営、戦争司令部をつくろうとするものです。
 そして特定秘密保護法を強行し、国民の目・耳・口をふさいで、一気に戦争への道を進もうとしています。おそらく最初は国民を脅すことが目的とされると思います。平和運動に手を染めたり政府にたてつくとこうなるぞというみせしめで、国民を萎縮させる効果があります。
 そして戦前の軍機保護法のように最高刑が懲役15年以下だったものを、日中全面戦争下で最高刑が死刑・無期に引き上げられたように、どんどん罰則を強化していく恐れがあります。
 戦後、治安維持法や軍機保護法、国防保安法は廃止されました。日本国憲法が侵略戦争の反省をふまえ、国民主権や基本的人権、平和主義を「人類普遍の原理」とし「これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」(前文)と宣言しているのもそのためです。
 人類普遍の原理に反する秘密保護法は憲法違反であり、ただちに廃止すべきだと思います。
 
 そして、2014年になって、集団的自衛権の動きが一気に加速しています。この4月にも安保法制懇が最終報告を出し、集団的自衛権を認める解釈改憲を閣議決定し、安全保障基本法など関連法案を秋の臨時国会で整備するとしています。
 
 来年の通常国会ではスパイ活動を強化する国家情報局をつくり、再来年2016年の参院選前に改憲を国会で発議し、衆参同日選挙にして国民投票も同時に実施するのではないかと日経新聞が報道しています。
 
2016年の改憲については予想の域を出ませんが、今日は集団的自衛権の問題を探ってみたいと思います。
 
2.そもそも集団的自衛権とは何かということです。
 一言で言うと、アメリカの戦争に日本が参加し、軍事力を行使するということです。イラク戦争ではアメリカ軍の軍人は4488人死亡しましたが、協力したイギリス軍も179人が戦死しました。日本の自衛隊はイラク戦争では非戦闘地域にしか派遣されなかったので、戦死者はいませんでしたが、集団的自衛権によって実際の戦死者も出ることになります。それ以上に忘れてはいけないのがイラク国民が50万人も殺されていると言うことです。集団的自衛権の行使とはこういうことなのです。
 
 この集団的自衛権について、国連憲章でも認めているからいいんだという人がいます。その問題を見ていきたいと思います。
 
(1)国連憲章の理念とは何かと言うことです。
 国連憲章は武力の行使を原則禁止しています。そして集団安全保障の立場を明確にし、国際平和を維持するためには、一国の自衛権に頼るのではなく、国際機構の中で、調停活動、予防外交、侵略認定、停戦や兵力撤退の要請、停戦監視団、平和維持部隊の派遣、経済・軍事的制裁を行うとしています。
 
 これが国連の原則であることをしっかり踏まえる必要があります。一国の自衛権・武力行使ではなく、国連内で様々な調停・予防を行い、最後の最後に軍事的制裁を行うとしています。
 当初は、国連憲章はこの部分だけで完結する予定だったのですが、例外措置として51条を挿入し、個別・集団的自衛権を認めたのです。
 51条は武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、やむを得ず個別又は集団的自衛権を認めたものです。
 
 国連はあくまでも集団安全保障、すなわち国連の機構として様々な措置をとるというものだったのですが、アメリカとソ連の対立が明らかになる中で、大国が拒否権を発動し、安保理が機能しない事態が想定されるようになりました。当時すでにアメリカ・ソ連ともそれぞれの同盟関係・軍事ブロックを想定しつつある段階で、実質的な同盟関係を認める集団的自衛権の概念を取り入れたのです。
 この集団的自衛権を認めたが故に、その後国連の集団安全保障の考え方は形骸化し、安保理の許可を必要としない勢力間の維持の軍事行動に集団的自衛権が活用されることになったのです。
 ソ連のハンガリー介入、アメリカのベトナム戦争、ソ連のチェコスロバキア介入、ソ連のアフガニスタン介入など戦後のほとんどの戦争が集団的自衛権として行われることになったのです。
 
(2)ここで押さえておくべきポイントは
@集団安全保障と集団的自衛権は全く異なるものだということです。どちらも「集団」という言葉がつくので混同しがちなのですが、集団安全保障というのは戦争回避のために国家の主権を制限してしまおうというものです。フランスの憲法でも、ドイツの憲法でも、日本の憲法でもそういう考えが示されています。
Aそれに対して、集団的自衛権というのは、同盟国だけで結束し、それ以外は敵と見なす排除の論理で成り立つものです。
 言い換えれば集団安全保障は安保理を中心に、平和を構築するというものであるのに対し、集団的自衛権は戦争を前提に同盟国が結束するものだということです。
 
(3)しかし、現実的には国連の集団安全保障は多くの問題を抱えています。
@一つは湾岸戦争の問題です。この戦争で国連安保理は、アメリカ主導の多国籍軍を安保理の代理と認めてしまったのです。国連の軍事活動は文民統制ですが、多国籍軍は軍人統制です。あとで出てくるように、集団安全保障と集団的自衛権をごちゃ混ぜにしてしまったのが、湾岸戦争だと思います。
A二つ目にはボスニア・ヘルツェゴビナの内戦でNATOが空爆を行ったことです。このこともあってコソボや東チモールでのNATO軍の行動を、国連が全権委任を行い、お墨付きを与えてしまったのです。
 このような多国籍軍方式は集団安全保障の私物化という避難を招いていますし、今日本国内でも集団安全保障と集団的自衛権がごちゃまぜの論理になってしまっているわけです。
 こうした国連理念と現実の乖離の背景には、兵器産業、アメリカの軍産複合体、武器密輸など巨大な闇があるように思います。
 
(4)集団的自衛権に関する日本政府の見解です。
 まず、憲法と自衛権については、主権国家の固有の権利として自衛権を認め、専守防衛、必要最小限の自衛力として自衛隊を認め、それは憲法9条とは矛盾しないという考えです。このこと自身非常に問題はあろうかと思いますが、本日の主題とは違いますので、100歩譲って自衛隊を認めたとしても、集団的自衛権、すなはち同盟国への武力攻撃に共同で武力で対応するということは、「我が国を防衛するため必要最小限の範囲」を超えるものだとして、憲法上許されないという見解を示しています。
 すなわち、国連憲章でも認められた集団自衛権はあるが、憲法9条から見てそれを行使することは不可能だと言うことです。
 戦後日本は安保条約やPKO協力法、周辺事態法、テロ対策特別措置法、有事法制など危険な条約・法律が制定されてきましたが、それでも政府の憲法解釈に沿って他国への軍事力行使というものには歯止めがかかっていたわけです。
 ちなみに永世中立主義をかかげるスイスも集団的自衛権は行使しないという政策をとっています。
 いま、憲法解釈を変えようという動きがありますが、憲法9条が生まれた背景を抜きにして憲法を語ってはいけないと思います。その背景にはポツダム宣言を受諾し、軍国主義を根絶し、完全な武装解除、民主主義と基本的人権の確立がその趣旨であり、このポツダム宣言の趣旨を忘れていいかげんな憲法解釈をしてはいけないと言うことです。
 あとで領土問題も出てきますが、どうも最近の安倍内閣の動きは、このポツダム宣言そのものを放棄しかねない、大変恐ろしいものだと思います。
 
3.憲法解釈を変更して集団的自衛権を容認する動きが、第二次安倍内閣で急速に進展しています。
 安倍首相は、日米安保体制の片務性(すなわち、米国が日本を守る義務を負う一方、日本は憲法の制約で米国を守ることはできない)と、集団的自衛権を使わないことによる同盟へのダメージは計り知れないという二つの理由で、集団的自衛権を容認しようとしています。
 
 それを実現するために
(1)首相の諮問機関として「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を第一次安倍内閣の時に発足させました。
 いわゆる御用学者・知識人に都合のいい報告書を出させて、一挙に憲法解釈を進めようとするものですが、実は第一次安保法制懇の報告書が出たときにすでに第一次安倍内閣は崩壊しており、その後の政権はこれを無視してきました。
 しかし、第二次安倍内閣になって再びこの安保法制懇を復活させ、まもなく4月中に最終報告が出されようとしています。その具体的内容については資料を参照してほしいのですが、およそ現実とかけはなれた空想的な議論がなされています。たとえば北朝鮮のアメリカに向けたミサイルを打ち落とせという議論がありますが、はるか上空を高速で通過するミサイルを迎撃するということは技術的に不可能だと専門科や政府関係者は言ってますし、そもそも北朝鮮からアメリカに飛ぶミサイルは日本上空を通過しないのですね。メルカトル図法という中世の地図上では日本上空を飛びますが、丸い地球儀では北極上空を飛ぶわけです。
 
 このように軍事専門家からいわせても非常に低いレベルの議論をしている安保法制懇ですが、それでも安倍首相は安保法制懇の報告書にもとづいて集団的自衛権を容認する憲法解釈を今国会中にも閣議決定しようとしています。
 
(3)内閣法制局長を変えてまで憲法解釈を変更することの問題をどう考えるかということです。
 これまでは「法の番人」といわれる内閣法制局が「集団的自衛権は憲法上認められない」というこれまでの一貫した政府見解を示してきました。
 安倍首相は内閣法制局長を変えて、憲法解釈を変えようとしていますが、このことの重大性を認識していないのではないでしょうか。
 もし、時の内閣によって、あるいは内閣法制局の頭をすげ替えることによって憲法解釈がころころと変われば、法制局の権威が低下するばかりか、法治主義の危機を迎えてしまいます。
 憲法解釈をめぐっては最高裁がその判断を放棄している以上、内閣法制局の議論がこれまでの憲法解釈の基準を担ってきたわけですが、それが崩されて容易に解釈変更ができるようになれば、おそらく訴訟の嵐になるのではないかと思います。そして、はたして解釈改憲の論理が裁判に耐えられるかということがあります。まさしく「法の番人」から「政府の番犬」に成り下がってしまうのではないでしょうか。
 
 安倍首相は憲法解釈の最高責任者は私だと国会で答弁しましたが、まさに法治主義・立憲主義を逸脱した独裁者の答弁だと思いました。
 
(4)推進派、安保法制懇のゆがんだ憲法観についてはレジュメをご参照いただきたいのですが、一つだけ触れたいのは、解釈変更推進派は憲法前文の「国際社会における名誉ある地位をしめたい」という文言を持ち出して、戦後日本はこれだけ発展したのだから自国民を守る最小限度の軍事力ではなく、国力に応じた軍事貢献をすべきだという考えです。しかし、この憲法の前文を部分的にぬき出すのではなく、その前後の文脈でみるとそういう解釈は成り立ちません。憲法前文に書いてあるのは「われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう努める国際社会において名誉ある地位を占めたい」 とあり、あくまでも平和主義の理念で国際社会における名誉ある地位を占めたいといっているわけです。
 先ほども言ったように、憲法ができた背景・理念を失って字面上で憲法解釈をしてはいけない見本だと思います。
 
 以上、憲法解釈を変更して集団的自衛権を認める動きを紹介してきましたが、解釈改憲を法律で規定する動きも見過ごすわけにはいきません。
 
5.国家安全保障基本法制定の動き
(1)法案の概要をみると、大変な内容になっています。
 まず、第8条の自衛隊についてですが、「陸上・海上・航空自衛隊を保有する」と明記しています。これは戦力不保持をうたった憲法9条に真っ向から反するものです。それだけでなく、自衛隊が公共の秩序の維持に当たるとして、自衛隊による国民監視を合法化しています。これまでにも私たちのイラク戦争反対の宣伝行動などが自衛隊でリストアップされていたことが明らかになりましたが、これを合法化し、国民弾圧を行うというものです。
 第10条では国連憲章を楯に集団的自衛権を容認し、第11条では国連憲章上の安全保障措置への参加として、国連安保理決議があれば、海外における武力行使を認めるというものです。そして第12条では武器の輸出入も認めるという、およそ戦後日本が築き上げてきた平和と民主主義を土台から崩す内容となっています。
 
(2)問題は憲法や、これまでの憲法解釈に反する法案が提出できるかという問題です。
@内閣立法の場合は憲法との関係を審査する内閣法制局の段階で普通はストップがかかります。いまの法制局長官の言動を見ると怪しい感じもしますが、これまでの常識では憲法違反の法律は内閣法制局の縛りがかかって国会上程はできないというのが常識でした。
Aそれに対して議員立法はたとえ内閣法制局で審議しても、意見は言うものの、法案提出を決めるのは立法権のある議員だと言うことで、議員立法で上程される可能性があります。ただし、議員立法は国会で法案の質疑に答えるのは提案議員になるわけで、相当な覚悟が必要になります。
 今国会では見送られるのではないかという報道が一部ありますが、決して予断を許さない状況にあります。
 
6.次になぜこんなにも集団的自衛権容認を急ぐのかという問題です。
(1)一つにはアメリカの圧力があります。現在のオバマ政権は安倍内閣に一定距離を置いている印象も受けますが、アメリカには二つの流派があり、一つはアーミテージに代表される武闘派と、ブレジンスキー(この人は日米同盟だけでなく中国も巻き込んだアジア戦略を持っている人です)に代表される中国重視派です。政権がどうだろうとアメリカには一貫した武闘派、ネオコン勢力、ティーパーティー派など保守的な勢力が存在し、日本にアメリカの戦争に協力するよう圧力をかけてきました。
 
 また、アメリカの経済力低下の問題もあります。アメリカは厳しい財政の下、軍事予算を大幅に削減しています。その分を同盟国の役割分担強化でまかなおうということで、日本からの自衛隊派兵を求めてきているのです。
 
(2)二つ目にはなんといっても改憲反対世論の広がりがあります。
 9条、96条ともに改憲反対の世論が過半数を超える状況にあります。おそらく安倍首相は解釈改憲を中心に集団的自衛権行使を優先させ、国民の間に無力感がただよう頃合いを見て、実際の改憲に出てくるのだろうと予想されます。
 
最近の改憲を巡る動きとして、麻生副総理がとんでもない発言をしていることは皆さんもご記憶していると思います。
 
7.麻生発言
 ある日気づいたらワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね、というので調べてみました。
 当時のドイツは現在の日本と同じような状況で、経済不況、失業、対外関係に行き詰まり孤立化を深めていました。そうした閉塞起案の下で強い指導者への期待もありました。
 政治は不安定でころころ政権が変わり、増税してデフレになり、ナチスと同時に共産党も躍進していました。すごく不気味なほど日本の状況と似ていますよね。
 そうした中で、ナチスは33%の得票率しかなかったのですが、ドイツは大統領に首相の任命権があったので、ヒトラー首相が誕生したのです。
 1933年の1月にヒトラーが首相になったのですが、2月に国会議事堂放火事件が起き、それを利用して次の日には緊急大統領令を発令して、基本的人権の停止と共産党員の大量逮捕を行いました。3月には授権法(全権委任法)を成立させ、ワイマール憲法の実質改憲を行ったのです。当時のワイマール憲法にも3分の2条項があったのですが、共産党の議席を剥奪し、分母を減らすことによって独裁体制を確立させたのです。
 こういう手口に学べと麻生さんは言っているわけです。非常におそろしいですね。ポスト安倍首相として麻生さんも名乗りを挙げているそうですが、安倍首相がこのまま続いても恐ろしいし、かといって麻生さんなっても恐ろしい、まして石破さんはもっと恐ろしい感じがしますし、自民党の良識派はいったい何をしているんだという感じですね。
 
8.日本の政治を語る場合、アメリカの問題抜きには語れない訳ですが、ポイントだけ紹介したいと思います。
 いま中小業者の皆さん、農民の皆さん、若者、婦人、高齢者各階各層の人たちが大変な思いをしています。私たちのくらしがこれほど破壊された背景にはすべてアメリカが絡んでいることを紹介します。
 ソ連が崩壊し、冷戦が終結した後、アメリカの最大のターゲットは日本経済とされてきました。日本経済と国民生活を破壊するためにさまざまな破壊政策が行われてきましたが、その最たるものとして1989年の日米構造協議をあげたいと思います。これは日本の産業の中心、物づくりへの投資を抑制し、630兆円の公共投資を強制するというものでした。これによってどうなったか。日本の技術力は低下し、SONYの凋落・停滞が象徴的だと思います。私は電化製品のほとんどはソニーで、その技術力には信仰に近いものを持っているのですが、ちまたの評価は違うんですね。ソニータイマーという言葉を知っていますか?ソニー製品は補償期間が切れる1年がたつと故障するようタイマーが仕掛けられているという都市伝説です。テレビが売れないどころかここまで評価が下がってしまった。サムスンの液晶テレビには歯が立ちません。
 むだな大型公共事業によって政治家と大企業の懐だけが潤い、日本の財政は悪化しました。財政悪化の解消として消費税も導入されました。
 農産物輸入自由化で農業経営が悪化するだけでなく、危険な農産物が出回るようになりました。オレンジとかグレープフルーツとか腐らない果物って何でしょうか?
 
 日米構造協議の後は1994年からの日米年次改革要望書です。日米と言っても実質はアメリカからの一方的な要求で、ここにもられたものは数年後政策化されます。
1998年 大店法が廃止され、大型店の進出が進む一方で町の商店街はシャッター通りとなりました。町のおもちゃ屋は見事になくなりました。子どもたちがおもちゃを買うのはトイザらスです。アメリカ産のおもちゃです。
1999年労働者派遣法改正 人材派遣が自由化されます。
2002年健康保険の本人負担3割化
2003年郵政民営化 郵貯・簡保の財産がねらい
2004年法科大学院と司法試験制度の変更 日本を訴訟社会に 弁護士だぶつき
 
民主党鳩山内閣は年次改革要望書制度を廃止。小沢一郎とともにアメリカの攻撃対象となり、その後失脚
 
そして、日本経済・国民生活破壊策の集大成として、TPPが出てくるわけです。
TPPは農業ももちろん大切な問題ですが、一番の問題は公的医療保険制度を解体することです。公的医療保険制度を解体して、アメリカの民間保険の出番を作ろうというのが一番大きな目的です。
そしてあらゆる分野に外国資本を参入させ、競争原理で病院も学校も経営させ、戦後日本が築いてきた公的なものをすべて破壊しようとしています。
 
(3)安保問題と領土問題についてはご参照いただきたいのですが、結論から言うと尖閣問題についてアメリカは関心外で、安保の対象からもはずす仕組みをとっています。
 
 
 
 
 
 
 
<次に日本の右傾化の問題をお話ししたいと思います。>レジュメのP.13をお開きください。
1.まず、先日行われた東京都知事選挙の問題です。
 当初泡沫候補と言われた田母神氏が12.5%の得票率だったと言うことです。田母神氏は元防衛省の航空幕僚長で、先の戦争を侵略戦争ではないという論文を書いて更迭された人です。
 そういう人が12.5%もの得票率を得ただけでなく、20代の投票先では宇都宮さんや細川さんを上回る支持を得ているのです。
 これを田母神ショックと呼んでいますが、日本の右傾化が大変なところにまで来ているのではないかというお話をしたいと思います。
 
2.右傾化の背景にある貧困・格差の問題ですが、いま年収100万円以下の労働者がサラリーマンの10%に、年収200万円以下の人は1千万人、サラリーマンの4人に1人は年収200万円未満という状況になっています。
 その一方で年収5千万円のサラリーマンも2万人に増えています。平均給与で見ると年々下がり続けているのが一番下のグラフからもわかると思います。そして企業の配当金も増えています。
 これらを総合していえることは、一つに企業は社員の給料を削って利益を出し、株主に配当していただけだと言うこと、二つ目には今日の格差社会は一部の億万長者が富を独占し、多くの低所得者を生み出したということです。
 
 低所得者が増えた背景には非正規雇用、派遣労働者の増加の問題があります。1987年には711万人だった非正規雇用が、2012年には1813万人と、2.5倍に増えています。今日の格差・貧困の問題は非正規雇用・派遣労働の問題あることは明らかですが、政府はおととい11日、労働者派遣法の改正案を閣議決定し、企業が3年ごとに働き手を交代させれば、どんな仕事も、ずっと派遣に任せられるようにするしくみを導入しようとしています。極端に言えば3年ごとに入れ替えれば、全社員を派遣労働者にできるということです。
 また正社員であっても有期雇用の契約を結ばされ、本来であれば5年を超えると無期雇用になるはずなのに、4年目でいったん契約解除ということも予想されます。
 
高齢者の貧富の問題
 
親から子どもへの貧困の連鎖
 
B自殺者数の三つのピーク(P.15)
 
 このように将来展望の開けない格差・貧困社会の元で政治家や真実を伝えないマスコミへの不信、そして強い政治家への期待が若者の中にあるのは確かです。
 
3.次に地域別得票率の問題です。
 田母神氏を支持するのは若者、貧困層かと問えば必ずしもそうではない。地域別に見ると田母神氏を支持している人は千代田区・中央区・港区という比較的富裕層の多くすんでいる地域に多く、むしろ足立区など貧困率が高い地域は支持率が低くなっているという問題もあります。
 実はここのところが一番やっかいな、今日の右傾化の本質があるのではないかと思います。若者、貧困層だけでなく一定の裕福な層にも田母神支持が浸透しているという事実をどう見ればいいのか。文壇ではいま「反知性主義」という言葉が目立っています。
 知性ではなく感情的なものでものごとを判断していくということですが、この反知性主義というのは歴史的に国家権力による愚民政策として使われてきました。古くは古代ローマの「パンとサーカス」。国民は食事と娯楽に浸されていれば政治に文句は言わないというもので、禁煙では3S政策(映画・テレビ、スポーツ、性の商品化)というものですが、最近はそれにスピードとSNS(ソーシャルネットワークサービス)も加えた5S政策ともいわれています。いずれも政治的な本質から遠ざけ、マスコミや文化を使って洗脳的に国民を操作しようとするものです。
 
 こうした反知性主義・感情主義がマスコミの操作によって大衆の感覚をくすぐり、靖国や慰安婦問題、領土問題で火をつけているのではないかとも思われます。
 
 最近ではネット右翼というネット上で過激な発言を繰り返す人たちの問題もありますが、この人たちに共通するのは、ネットに書かれてあることを鵜呑みにして、自分で学習して裏付けをとらないと言うことです。そしてコピーアンドペーストを繰り返して情報を広げていくという作業を繰り返すうち、誤った情報も数多く氾濫すると真実に見えてくると言う錯覚を覚えているのではないかと思われます。
 いま話題になっている理研の小保方さんも、コピーアンドペーストで論文を作成していたことが問題になっていますが、やはり学問はまず疑うことを前提にすべきではないかと思います。
 
4.次に右傾化の問題として在日朝鮮人特権を許さない市民の会(在特会)のヘイトスピーチについて考えてみたいと思います。
まずは、動画を見てください。
 
 このようにすさまじい民族差別が全国的に行われています。在特会山形支部というのもあります。
日本ではヘイトスピーチを取り締まる法律がなく、警察官もただ見ているだけという状況ですが、ドイツでは刑法で取り締まることができ、差別を許さない市民の意識も高いものがあります。
 
 いま1万人以上の在特会会員がいるそうですが、自分よりも弱いものをいじめて、相対的に浮上する高揚感が背景にあるのではないかと思います。格差社会でもやもやした感情が、朝鮮人・韓国人をいたぶることによって強いものになったという意識が生じ、政治家がそれをうまく利用して独裁政治を作り上げるというのが歴史的事実ですが、安倍首相も国会答弁では在特会を批判しましたが、自身のフェイスブックではこれを肯定しているような発言をしています。
 
 
5.次に赤木智弘さんの「丸山眞男をひっぱたきたい」という論座という雑誌に載った論文を紹介したいと思います。
 当時この人は31歳の年収130万円のフリーターで、夜勤のバイトをしながら独身で親元で生活をしていた人です。典型的な格差・貧困に苦しむ若者ですが、戦争を待望するという大変ショッキングな論文を出しました。
その要旨は
・これだけ苦しんでいるのに、左派は何もしてくれなかった。
・左派の労働組合は自らの正社員を守るために、非正規雇用の問題には取り組んでこなかった。
・だから若者は左派に失望し、右傾化するのだ。
・給料が増えず、平和なままの流動性なき今の日本では、我々はいつまでたっても貧困から抜け出す ことはできない。そうした閉塞状況を打破し、流動性を生み出してくれるのが戦争だ。
・戦争ですべてをリセットすれば、今の格差社会をなくして平等な社会にできる。
・戦争は本当はいやだ。だからこうして訴えている。しかし、それでも自分の生活が変わらず苦しみ が続くのであれば、そのとき私は「国民全員が苦しみ続ける平等」を望む
 
この特徴をまとめると
<特徴>
@非正規雇用、将来不安などギリギリの状況にある。両親がいなくなると赤木氏も生きていけない。 死の覚悟がある。どうせ死ぬなら「お国のために」戦地で死んだ方が英霊として尊敬される。
A「左派」に期待していたが、10年間何も変わらなかった。労働組合も正職員の権利擁護には一生懸 命だが、非正規雇用対策は何もしてこなかった。正規雇用を保持する調整弁として、偽装請負など 違法を黙認してきた。むしろ「正社員の待遇を非正規社員の水準にあわせろ」という考えに同調し ている。
B敵は安定労働者とそれを擁護する「左派」と決めつけている。「労働者派遣法」が諸悪の根源と知り つつも、「左派」は「闘え、連帯せよ」と抽象的な言辞を弄するだけとし、むしろ「拉致被害者を救 え」「国際貢献に自衛隊を派兵しろ」「朝鮮人を追い出せ」という「右派」の態度は「責任ある態度」 と映る。
C「右派」の思想では「国」「民族」「性差」「生まれ」といった決して「カネ」の有無によって変化 することのない固有の「しるし」によって人を社会に位置づける。経済格差によって社会の外に放 り出された貧困層を別の評価軸で社会に規定すると評価している。
D根本から右傾化を望むものではない。貧困層は生きていくことだけで精一杯。考えることのできる ゆとりを望んでいるが、どうすればいいかわからない。
E戦争待望論
 ・破壊願望「こんな世の中つぶれてしまえ」
 ・ねたみ「幸せな人間が不幸になればいい」
 ・自殺願望「せめてお国のために死にたい」
 ・大東亜戦争へのノスタルジー「経済中心の堕落した生活ではなく、緊張感のある新しい社会秩序」
F本音「ほんのわずかの思いやりを」
 私たちのような、いまだにまっとうな役割を与えられぬまま、社会の周辺で、社会の内部にいる
他人を恨みながら生きるしかない人間を、社会の中に組み入れるためには、どうすればいいのか。まずは、社会の内部にいる人間の、ほんのわずかな「親切心」や「思いやり」といったもの。それこそが必要ではないでしょうか。(若者を見殺しにする国)
 
赤木さんの主張は突拍子もないことがほとんどですが、若者の純粋な声としてうなずける点も多々あるかと思います。ぜひこの人の本を読んでほしいと思います。
 
 
レジュメの10ページに戻って、それでは日本が進むべき道は何かと言うことを最後にお話ししたいと思います。
 
@力関係の冷静な分析
・中国に軍事力では対抗できない。
 
A領土問題(尖閣)の解決
・中国の主張:15世紀から文献に「魚釣島」の記載がある。
 日本の主張:1895年閣議決定で尖閣諸島を日本領に編入
・米国は「尖閣諸島の領有権についてはどちら側にもつかない」
・ポツダム宣言…「諸諸島」の帰属は米英中(ソ連)が決定する
・領土問題を武力紛争にしないために
  領土問題を避けるための取り決めを行う(棚上げ論は有効)
  国際司法裁判所に提訴
  多角的な相互依存関係を構築
  国連原則(非武力)を前面に
 
Bドイツとフランスに学ぶ
・戦争被害を繰り返さない決意
・石炭、鉄鋼の共同管理→EC、EUへ発展 協力しあうことが両国の利益になる
  ドイツ議会外交委員長の言葉  
 戦後、我々はフランスとの確執を克服した。その我々からみると、日中関係がどうして改善されないか不思議だ。独仏には昔から領土問題がある。二回の戦争を戦った。相手の国がいかに非人道的なことを行ったかを指摘し合えばお互いに山のようにある。しかし、我々は二度の戦争を繰り返し、このような犠牲を出す愚行を止める決意をした。憎しみ合いを続ける代わりに、協力し合うことの方が両国民に利益をもたらすことを示した。そして、これまで戦争の原因にもなった石炭・鉄鋼を共同管理するために、1950年欧州石炭鉄鋼共同体をつくった。それが欧州連合に発展した。いまや誰も独仏が戦争することはないと思っている。
 
 
Cカナダに学ぶ
1)常に隣国アメリカから圧力を受けながらも、一貫して自主外交を展開
・ピアソン首相(ノーベル平和賞)
 アメリカの大学でベトナム戦争北爆反対の演説
 翌日ジョンソン大統領との首脳会談:胸ぐらをつかまれ1時間恫喝を受ける
(一方で、アメリカに武器・弾薬を供給。志願兵も参加。枯れ葉剤もカナダ国内で製造)
・クレティエン首相
 イラク戦争の際にブッシュ大統領に「国連決議がなく、大量破壊兵器の存在の証拠がなければカナ ダは参戦しない」と明言。さらに戦争回避をぎりぎりまで追求。
 (日本は世界でいち早く小泉首相がブッシュ支持を表明)
 (アフガニスタンにはNATOの一員として派兵)
2)経済面におけるカナダのアメリカ依存度(2012年)
・全輸出に占める対米輸出 73.1%
・GDPに占める対米輸出 20.1%
3)それでも自主外交を追求する背景
・国連を中心とした多国間協調主義が背景に
・多元主義の下で自分の考えを確立し、思想に一貫性を持つ…国民の支持
・アメリカ政府だけでなく、議会・議員工作も重視
(鳩山・小沢に欠けていたもの)
 
DASEANに学ぶ
・歴史、人種、宗教など多くの面で異なりを持つ国々
・「平和や経済的安寧の育まれるべき理想は域内諸国間の協力の促進によって最もよく達成される」とう共通した信念
 
E東アジア共同体の可能性
<条件>
1)紛争を避けたいという強い思いが存在すること
2)領有権の問題よりも紛争回避が重要であるという認識があること
3)複合的相互依存を進められる分野が多く存在していること
<日中相互依存関係を強化できる分野>
・環境、公害  ・水資源(海水の淡水化)
 
F日本が国際社会で果たす役割=DDR
 Disarmament(武装解除) Demobilization(動員解除) Reintegration(元兵士の社会復帰)
 伊勢崎賢治氏(自衛隊なしでアフガンDDRを成功させた)

アフガニスタンDDR事業は、伊勢崎賢治政府特別代表の指揮のもと、国連アフガニスタン支援
ミッションの支援を受けて実施され、2003年10月?2006年6月末の約3年間で完了した。この
事業の結果として、アフガン政府国防省傘下の旧国軍約6万名の武装解除が完了している。
 
*国連軍事監視こそ日本の果たす役割(国連スタッフとして非武装で赴く)
*アメリカもできなかったアフガニスタンDDR事業を日本がなしえたのは平和憲法を持つ日本への 信頼があったからこそ。
 
 
10.おわりに
・この学習会の中身は、特に後半部分は孫崎享氏の文献によるところが大きい。
・孫崎氏は日本がアジア重視の道を進むことは、アメリカの圧力があって不可能と断定
・孫崎氏は最後にノルマンディの話を例にして「犬死に」でもいいと話を結んでいる。
 
 ノルマンディへ行け。そして墓標をみろ。多くの戦士は崖をよじ登った。上から機関銃を撃ってくる。兵士は登るだけが精一杯で撃ち返すことすらできない。ノルマンディはその人たちの墓標である。しかし、犬死にとみられる行為の積み重ねの上に、誰かが登り切った。そして勝利を得た。
 
 
つたない話ではありましたが、一つでもみなさんの心に残るものがあり、明日のみなさんの活動に役立てられることを祈念して、私の話を終わります。どうもご静聴ありがとうございました。